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ビジネスを変えるグローバル・ネットワーク


                
松下電器産業グローバルネットワークGANDAM
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旧来型ミドルの淘汰が始まった
評価のモノサシは「情報力」

日経ビジネス 新年巻頭特集「新エリートが企業を変える」
 (1990年1月1日)

  和を重んじた日本の経営者たちが中間管理職,団塊の世代への不満を言い始めた。若手との直接対話,部課長制の廃止,ピラミッド型組織の改造……。企業にとって,進取の精神を忘れがちなミドルは無用の長物。欲しいのは,情報を駆使し戦略性を持って仕事をこなす戦略情報ミドル(SlM=ストラテジック・インフォメーション・ミドル)だ。


  わが国で最初に事業部制を導入した松下電器産業。ピラミッド型組織の強みを徹底的に生かし家電王国をつくりあげた。その松下がパソコン通信を武器にピラミッド崩しに乗り出した。

松下のピラミッド崩し

 松下電子部品の液晶デバイス部経理課に平成元年に入社した前岡徹さんは,10月25日,松下電器本社で経理を担当する平田雅彦副社長にパソコン通信のネットワークを通じ「手紙」を出した。
 「新入社員の前岡です。先日の運動会でお話する機会があった時,『液晶で苦労しているようだね』と声をかけて頂きましたが,今度お目にかかる時は『液晶はよくやっているようだね』と言われるように頑張りたいと思います」
 松下グループの関係会社の1年生である前岡さんが,グループ全体の経理の最高責任者である平田副社長に堂々と決意表明しているのだ。松下のみならず,秩序だったピラミッド社会にあっては,こうした若手とトップの直接のコミュニケーションは極めて難しかった。
 前岡さんが課長も部長も通さずに本丸の経営トップと直接対話できるのは,時間と空間を超えて誰もが情報交換できるニューメディア,パソコン通信のおかげだ。その名は「GANDAM」(グローバル・アカウンティング・ネットワーク・オブ・データ.アンド・メッセージ)。テレビの人気アニメ「機動戦士ガンダム(GUNDAM)」をもじって名をつけた。昭和63年9月に本格稼働し,松下グループ各社の経理担当者 1700人が参加している。松下本社のみならず,内外の関係会社の新入社員でも平田副社長と直接対話することが可能だ。
 メニューは異動情報や経理部門通達などを流す業務直結型とコミュニケーション型の二本立て。コミュニケーション型には平田副社長と直接対話ができる平田副社長コーナーや若手がおしゃべりを楽しめる「GANTAROU」などがある。参加者は平田コーナーなど一部のメニューについて,1日に1回アクセスし伝言を読むことが義務付けられている。情報の共有化を徹底するためである。

「ガンダム」で文化革命

  パソコン通信導入の狙いは情報の流れが遅くなりがちなピラミッド型組織の弊害を打破することだ。前岡さんと平田副社長の間には通常のラインなら何十もの階層がある。GANDAMを使えばこれを一気に超えて情報のやりとりができる。
  平田副社長は「社内の階層,時間,場所を超えたコミュニケーションを実現し松下の企業文化つまりカルチャーを変える。いわば文化革命だ。若い社員との直接対話を通じて従来と全く違う新鮮な情報やアイデアを手に入れることができる。経理以外にも波及していけば,事業部制の壁を崩せる」と語る。
 言い換えれば,課長,部長といった中間管理職を排した中抜きの情報流通である。従来のピラミッド型組織では悪い情報が階層を上る過程で薄まったり,斬新なアイデアが黙殺されたりした。 GANDAMのような情報ネットワークが機能し出すと,中間管理職は追いてきぼりを食う恐れがある。
 決して大げさな話ではない。松下は経営もコンピューターも分かる経理マン「MIO(マネジメント・インフォメーション・オフィサー)」という金バッジ組を設けている。 CIO(情報統括役員)をもじった造語で,平田副社長の思想を布教するために選ばれた特命社員だ。選ばれた87人は主任,主事といった若い管理職で,40歳を超えた課長,部長といったクラスは対象にもならなかった。
 選考外となった中年管理職組は多少の嫉妬さえ感じている。平田副社長も中間管理職の仕事ぶりへの不満を口にこそしないが,ややもすれば惰性の管理に陥りがちな中間管理職へのショック療法と位置づけているようだ。一種のミドルバッシングである。

ファナックは管理職再選別

 ミドルたたきの動きは松下だけではない。ファナックの稲葉清右衛門社長は,山梨県忍野村の本社でこう言い放った。「20代,30代技術者の能力を最大限に引き出すための組織作り。これが最大の関心事だ。ピラミッド組織は管理を目的にした軍隊の組織で研究開発には向かない。もはや管理するだけのミドル技術者はいらない」。
 インタビューに同席した人事担当の加藤進平専務があわててメモを取り始めた。それほどショッキングな発言だ。稲葉社長は平然と話を続ける。「研究所の部課長制を廃止する。管理者は所長と副所長の2人。グループ制を導入し,主任研究員と研究員に分ける。グループごとにマネジャーを設け,必要に応じてプロジェクトマネジャーを置く」。
 稲葉社長によると, 10年前の研究所の所長の仕事は95%が管理,残り5%が自分の専門の研究だった。部長は60%管理,40%研究。課長は管理が40%で研究が60%だった。今は,所長でも10%,部長で80%,課長で100%研究に没頭してもらわないと技術革新のスピードについていけない。 激しい技術革新の波の中で開発成果を上げるためには,ロボット技術,コンピューター技術など先端分野の情報を理解し,製品化に生かす能力が不可欠になる。頭が硬くなり,管理はできても,技術情報を収集し処理できなくなった管理職は要らないわけだ。


第2部 「経理部SIS」がグループを牽引
−松下電器・経理の挑戦

日経情報ストラテジー 特集企業革新
「現場発想SISが企業を再生」 (1991年10月号)

 単なるトップダウンで SIS(戦略情報システム)は構築できるのだろうか。答えは「ノー」だ。まず,組織の中に情報を活用して仕事を進める「風土」がなかったら,SISなど作っても何の意味もない。これに気づいた多くの企業が,経営層から現場まで,あらゆるレベルでの情報化の「底上げ」に取り組み始めた。パソコン通信を利用した情報共有から始まって,業務の革新や意思決定のスピード化が進む。目標は現場からの発想を日々反映する戦略情報システム―現場発想 SlS―の構築だ。
                                            (斎野 亭,小林 暢子)

経理部員が情報システムを発想

 知的経営支援システムは一朝一夕に出来たものではない。ここに到達するまで,松下の社内では,情報活用風土を確立するための試みが経理部を中心に繰り返されていた。1987年平田雅彦副社長は経理部門の改革運動「vision90」を打ち出したこの中には,経理部門の情報化推進の必要性が強く説かれていた。
 もともと,松下グループの経理部門は異質だ。松下グループの強固な事業部制のもと,事業部を横断した「経営体質強化の羅針盤」として働くことが期待されている。グループ企業の経理部員の人事権は本社経理部に属し,人事部とは独立している。Vision'90は,この経理部門の経営企画・管理機能が,複雑化する一方の業務や組織の実態に合わなくなっているという,平田副社長の危機感から発した。
 まず,グループ企業間で経理部の横のつながりを強化し「松下グループ全社に,情報システムによって"横串(よこぐし)"を通そう」と活動が始まった。そのためには,経理部員のコンピュータ知識,利用能力を向上させなければならない。
 こうして,経理部自身による情報システム構築プロジェクトが始まった。メンバーは山本氏を中心に各事業部経理から87人を選出。CIO(情報統括役員)をもじって「MIO(マネジメント・インフォメーション・オフィサー)」と名付けた。これを統括するのは本社経理部システム企画グループ。松田基(もとい)本社経理部長がプロジェクトの実効性を定期的にチェックすることになった。

パソコン通信を仕事で使う

 第一歩はパソコン通信の導入だった。名称は「GANDAM(グローバル・アカウンティング・ネットワーク・オブ・データ・アンド・メッセージ)」。社員がパソコン操作に慣れるのはもちろん,社員の横のつながりを強化し,上司とのコミュニケーションを改善することも狙った。
 現在,このネットワークは経理の枠を超え,海外も含めた全社に広がっている。導入3年後の91年末には全社で4130人が参加し,1カ月の平均使用回数は1人あたり7回に上る。「平田副社長は自分あてのメールには必ず返事を書いていた。こういう努力が普及の下支えになった」(山本氏)。
 しかし,せっかくのパソコン通信も社員のコミュニケーションにしか使われないのでは意味がない。システム企画グループは,社員が自分の業務に GANDAMを利用するような仕掛け作りに取り組み始めた。
 一つは MIOを中心とした各部署のGANDAM自主活用メニューの開発だ。現在,海外も含め経理・非経理あわせて29の部署で,それぞれニーズに合わせた独自のメニューが設定されている。たとえば, AV本部経理は海外会社との生産計画調整に利用,技術部門は技術法規,研究発表のデータベースを作るなど業務に関連した活用事例が急増中だ。
 MIOの経理部一人,国際インダストリー営業本部の秋山秀夫主事は管轄下の25営業所間の通達をGANDAM経由でスムーズに進める仕組みを作った。「電話やファクスの方が早い」というユーザーには,直接出向いてGANDAM操作のデモを行い,便利さを説得して回った。 
 「今後はデータ系ものせて,営業所間で顧客情報や売り上げ見込みの数値データも交換できるようにしたい」と語る。そのため,事業部経理の中に35人の"サブ MIO"を任命,いくつかのプロジェクトチームに組織して独自のプログラム開発も始めた。各チームは事業計画作成ソフトなどのプログラム開発に取り組んでいる。
 「自分でプログラムを組むことでシステムエンジニアの言葉が分かるようになる。これは今後,情報システム部門や外部の業者と大規模なシステムを構築する際,コミュニケーションの円滑化に役立つはず」と,2年前に MIOに任命されるまではパソコンの素人だった秋山氏が自分の経験から語る。
 本社経理部システム企画グループは、さらに「GHOST BUSTERS(ゴ−スト・バスターズ)」と呼ぶ業務改善支援グループを組織。各事業部に入り込んで,業務非効率の元凶となる問題(ゴースト)を洗い出す作業に着手した。「単に情報システムを導入するだけでなく,業務そのものが変わるような抜本的改善を行うのが目的。そのためには,管理・経営方針にかかわる問題の改善もいとわない」と, GHOST BUSTERSメンバーである本社経理部システム企画グループの宇佐美泰一郎氏は語る。
 問題を様々な視点から分析できるよう,経理,情報システム,現業部門から4人一組で混合チームを編成。すでにエアコン事業部,精機事業部への支援を行った。現在は,住宅機器販売を行え首都圏 HALS支店経理部の在庫管理システムに取り組んでいる。
 これらの動きは,いずれも本社プロジェクトチーム主導。ユーザーはまだまだ「引っ張られて」いる状況だ。しかし,コンピュータへのアレルギーが一掃され,仕事にコンピュータを使おうという意識が社員に定着しつつあることは確かだ。

見本となるマネジメント

 草の根のコンピュータ活用風土はできた。その結果,システムとして結実した最初の例が,前述の知的経営支援システムである。「具体的な形になれば価値が分かる。目に見えるモデルケースを作ることが目的だった」(山本氏)。
 現在は松下精工で試験的に利用しているだけだが,導入半年を経て,他のグループ企業からも導入をにらんだ見学が相次ぐ。
 「MAPはシステムとしてまだまだ発展途上」というのは,開発側・経営陣の一致した見方。「AI機能も,まだ中学生のレベル。訓練には使えるかも知れないが,参考にするまでには至っていない」(山本氏)。ただし,実際に会議で画面を見せられた経営陣は強い反応を見せている。「会議で使うたびに『こんなデータも入れて欲しい』『この計算の根拠も見せてくれ』といった要望がどんどん出てくる」(鈴木忠夫・松下精工社長)開発側にとっては、これが大きな励みになる。
 データを的確に活用できるのか。利用する側の能力も問われる。経営会議で,説明者が業績の数字をだらだらと読み上げていると,取締役から「ええんか悪いんか,一言で言え」とゲキが飛ぶこともある。さらに,必要なデータを取るために,社員や販社の説得も大切。システム構築と並行して,業務そのものの改革も進められている。
 「今のマネジメント層は若いころから手計算で苦労してきた世代。その世代が率先して,意思決定のような重要な局面にコンピュータを導入することは,末端の社員に大きな刺激を与える」を松下精工の松本強常務は語る。
 MAPを利用することで,事業部長や現場担当者が担当分野以外の情報を簡単に見ることができるのも,大きなメリットだ。「マネジメントは各事業部の専門家でなく,経営という観点から,会社全体を眺めるように変わっていく。事業部制を維持しながら,そこにシステムという横串を通せるようになる」(同常務)
 コンピュータは仕事のやり方を変えられるか。情報システムは企業を変革するのか。そして,それは現場ユーザーの手で行なえるのか?その答えを探って、松下電器本社経理の挑戦は続く。


平田副社長とのメッセージ交換

日刊工業新聞社 雑誌「事務管理」
 特集『検証!企業内コミュニケーション・システムの導入効果』 ライター大沢幸子(1991年10月号)

1.決算に必要な通達や慶弔関係の連絡をすべてパソコン通信の掲示板で表示するようにして、業務遂行上どうしても、パソコン通信のホ ストをのぞかなければならないようにしたこと。
2.平田副社長と若い社員とのコミュニケーション・コーナーを設け、必ず毎日見るように義務付け、意見交換を活発化させたこと。
GANDAMのメニューでは、この平田副社長コーナーが最も活発に利用されており、これまでの呼び出し回数は20万回を数えている。

  GANDAMのメニューは以上の通達、慶弔、平田副社長コーナーのほかに、図1のようなものがある。機能としては、電子メール、ファイル転送、電子掲示板、電子会議、 CUG、リアルタイム・メッセージがあり、このうち最も利用頻度の高いのは電子メールと掲示板となっている。同社には全社アプリケーションシステムとして、IBM、富士通の大型機をホストコンピュータとする各種情報システムがある。GANDAMはこれとはホストを別にする社内パソコン通信「PanaVan/PC」で稼動するアプリケーションのひとつというくらいの位置付けになる。 (図2)
 経理部の業務でも、データ量の多いものはホストで処理し相手先の絞れるデータはGANDAMで処理するというふうに使い分けがされている。全経理社部の社員数は2500人PanaVanPCへの加入者は全社で4000人。このうち経理部の社員が1500人となっており、この割合をみても、いかに経理部での利用がすすんでいるかがわかる。
 GANDAMの特徴としてはつぎの3点が挙げられる。
  1.日本語と英語が同一システム上で同時に対応できる(現在スペイン語も計画中)。
  2.24時間稼働
  3.国際パケット交換網により、海外80カ国以上にアクセス・ポイントをもち、大幅なコストダウンを実現したこと。

ユーザーが情報化の先端を行く

  パソコン通信利用の効果としては、まず、経理部社員のほとんどがパソコンに慣れたことがあげられる。平田副社長の方針は、ひとまず達成できたといえよう。もちろん、パソコン通信は業務の効率化にも役立っている。
 1.ペーパーレス化
 FAX用紙などの紙のやり取りをなくし、ファイリングや,情報の再加工を容易にして、情報の共有化を可能にした。
 2.これまでは FAXで届いた文書を再入力していたが、再入力の手間が省けるようになった。
 3.経理責任者会議などの日程を、これまではワープロで打って100〜200カ所に FAX、もしくは郵送していたが、電子メールによって 一度に送ることができるようになった。
 4.異動や慶弔の知らせも、これまでは人材開発グループがFAXで送信していたが、現在は各部で入力し、人材開発部の仕事は大幅に 軽減された。
 5.通信コストの大幅削減パソコン通信のコストは FAXやTELEXに比べて約40〜60%削減される。
 GANDAM導入を担当した本社経理部システム企画グループ゜の中山晴樹氏は、「先導役としての経理部の役割は果たせたと自負しています」と満足げに語る。現に、経理部が切り開いたパソコン通信の利用は、営業本部、物流企画部、サービス本部、研修所、労働組合などへと広がりつつある。
 ゆくゆくはオープン・システム化し、現在使っているパソコンをワークステーションに置き換える計画もある。
 パソコン通信によってコンピュータ人口が増え、情報に強くなりつつある経理部は、目下、AIを導入した経理システムの開発に取り組んでいる。経理マンの仕事に大きな変革の波が押し寄せるのもそう遠い先のことではなさそうだ。


一人一台時代に
突入した国際ビジネス型企業

●日経コンピュータ 創刊8周年企業特集
「見えてきた企業内コミュニケーション新時代」(1989年10月23日号)

複数ホスト,複数端末をサポート
松下電器産業

 松下電器産業が現在構築中の企業内コミュニケーション・システムの特徴は,複数ホスト,複数端末による複合 型システムという点にある。特にさまざまな端末から企業内コミュニケーションシステムの中に入れることを同社は重視している。「ホスト機に接続式るワークステーションで1人1台体制を目指すのは現実的でない。コミュニケーション・システムの普及のためにはワープロのような低コストでシンプルな機種まで含めてサポートする必要がある」(橋本嘉行情報企画部ビジネスVANプロジェクトリーダー)からだ。
 図3に示したように松下電器産業が推進中のコミュニケーションシステムは計画中のものを含めて大きく3つの階層になっている。 PFUのスーパーミニコン, A-50シリーズをベースにしたパソコン通信システム(Pana-Van/PC),各事業所のホスト機をベースにした事業所内電子メール・システム,全社ホスト機をベースにした国際基幹電子メール・システムである。すでに運用を開始しているのは Pana-Van/PCで,今年末から90年にかけてホスト機(IBM,富士通)系の電子メール・システムを順次稼働させる。さらに91年にはこれら電子メール・システム間の相互乗り入れができるようにする計画。こうした複合型のシステムによって海外94拠点を含むグローバルな電子メール・ネットワークを作り,加入ユーザー数も89年度の2900人が90年度4700人,91年度は7000人と大幅な増加を見込んでいる(図4参照)。異なる電子メール・システムのインタフェースにはOSI(開放型システム間相互接続)の MHS(メッセージ・ハンドリングシステム)を採用したい意向。

電子メールは電話, FAXと並ぶ通信手段になる

 Pana-Van/PCの本格運用を開始したのは88年9月。経理部門や技術部門でのパソコンの普及を受けて,「今後は電子メールが,電話やFAXと並ぶ重要なコミュニケーション・インフラになる」(橋本プロジェクトリーダー)と同社のVAN推進グループが考えたのがきっかけである。いきなりホスト機のメール・システムを導入せず,A-50ベースで開始したのは,まず電子メールの利用イメージを明確にしておく必要があることと,既存のさまざまなパソコン,ワープロを接続したかったためだ。A−50の通信ソフトは富士通のTELENOTE U/Aを採用し,実際にUlシリーズのようなワープロからパナコム M,オペレート, PS/55,IBMPC/ATなどさまざまなパソコンを接続している。

経理部門を先頭に普及が進む

Pana-Van/PCは,1エンドユーザー当たり毎月の基本料金が2000円,利用料は遠近格差なく一律に30円/2分間で、ユーザーである事業部が管理部門に支払う仕組みだ。"遊び"の利用はできないわけだが,加入者数は現在2100 人1人当たりの利用度は月に10回とまずは順調だ。運用時間は朝7時から夜10時まで。利用の中心は全加入者2100人中1200人を占める経理部門で,経理制度の通達・問い合わせ,決算データの速報などに使用している。
 Pana-Van/PCのシステム的・技術的問題はVAN推進グループが担当するが,活用事例の配布など実地の普及活動は経理,技術,営業,生産技術,情報システムなど各職能ごとに設置した事務局が担当している。「今まで順調に電子メール・システムの利用が進んだのは事務局が普及に熱心だったことが大きい」(橋本プロジェクトリーダー)と語る。


ミニインタビュー/平田雅彦 松下電器産業社長
社内パソコン通信で"文化革命"を目指す

 本社の経理部門を見ていると,日常の業務処理のために追いまくられている。「仕事にゆとりを持とう」という当社の大方針に従って,この現状を改善するには,全員がパソコンを使えるようになる必要があると強く感じた。
 パソコン通信は,経理社員をパソコンになじませる手段として始めたのだが,やってみると私がホスト役の電子掲示板にたくさんのメッセージがくる。現場の女子社員から職場のレクリエーションへの参加依頼もある。またアマゾンの奥地などから現地人発信のメッセージもくる。これまで,言葉を交わす機会もなかった社員との距離がグンと縮まり,お互いの親近感も生まれてきた。業務の改善についての提案もどんどん書き込まれている。
 21世紀に向かって,市場の変化に即応するために意思決定のスピードをあげる必要があり,ピラミッド型の組織を崩していきたいと感じているが,パソコン通信はそういう"松下の文化革命"の道具になると実感している。
 今は経理が中心だが,これからは全社的に使いこなすことで,市場のニーズを開発部門に直接伝えていくとか,系列販売店との連絡を密にするとか,様々な活用をして行きたい。(談)

 

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