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まえがき

2002817
宇佐美 泰一郎

 バブル経済の崩壊後、多くの企業で経営再建が行われています。リエンジニアリング、リストラなどの言葉が新聞やラジオで頻繁に語られ、書店に行けば所狭しと『○○革命』などと称したビジネス書が並べられています。

 しかし、実際の経営の立て直しの現場にいると、そのような手法や理論で決して解決つくような簡単なものでないことを痛感します。表面的に取り繕ったり、現象面で現われた問題解決はできても、その本質までは簡単に解決つかないのです。そしてまた今私たちが直面している課題は、まさに本質までさかのぼらないと解決のつかないものばかりなのです。

 その時に、ぶつかる壁は、まさしく『人』であります。『事業は人なり』は古くから言い伝えられておりますが、これ程混迷を究めた時代にこそ、この言葉の重みが改めて強く感じられるものです。

 改革の理論や手法以前として、「改革できる人がいるか」ということです。

 筆者の師であり、「経営の神様」と呼ばれた故松下幸之助翁が松下政経塾においてその弟子たちに最初に語った言葉は、「素志貫徹の事〜常に志を抱きつつ懸命に為すべきを為すならば、いかなる困難に出会うとも道は必ず開けてくる。成功の要諦は成功するまで続けるところにある。」でありました。つまり「志なきところ、成功への道は開かれず」なのであります。

 改革が成功している事例を研究すると、そこには必ず共通するものがあります。それは「改革ができる人」つまり、キーパーソンがいるということです。しかもその人達に共通するのは、頭がいいとか人柄がいいというのではなく、まさにこの志をもっていて成功するまで続けているということなのです。

しかし、一概に志といってもそれがどのようなものなのか?そしてどのように構築していくのか?志ができた状態というのは、どういう状態をいうのか?まさに禅問答のように定かではありません。

そこで、本書の目的は『人生の生き方を深めたい』、『改革のリーダーとして腹を決めたい。』、『自分をかけた新しいビジネスや事業を始めたい』などといった人達を対象に、まさに『志をたてるには具体的にどうしたらいいのか』をよりわかりやすく伝えることが目的であります。

 こうしたテーマの性質上、もちろんどこかに客観的な答えが存在するようなテーマではありません。筆者のこれまでの人生を振り替えって自省を中心にしてまとめたものです。こうした関係から筆者の私事もかなり語っておりますが、上記のような目的をご理解の上お許しいただきたいと思います。

 なお、本書は第一部として要旨の骨格を簡潔なレジメとして最初にご提示しております。次に第2部では、それに基づいて京都政経塾での特別講義の速記録を、そして最後に私事で大変恐縮ですが、筆者が自分の志をどうたててきたのかをよりよくご理解いただくために、資料を添付いたしました。本文を読まれる際のご参考に供せれば幸いです。
 

 最後に、この本をまとめるにあたり、講演の機会を作っていただいた京都政経塾の甲斐塾頭をはじめ塾生の皆さん、また本書の編集構成で何日も徹夜で手伝っていただいた池田武氏にはこの場をお借りして深い感謝の意を申し述べます。

京都政経塾 特別講議(速記録)
『改革の志の立て方』 

1994年7月9日実施

【解説】

 この速記録は、著者が「改革テーマのまとめ方」として、先の骨子をレジメとして用いながら、京都政経塾で行った講義の速記録である。京都政経塾は1年間のカリキュラムで、主に社会人を対象として塾生を採用している。最初の半年は、今日の社会的な課題を広く学習し、後半の半年は、それぞれ(個人あるいはグループ)が具体的な社会改革のテーマを設け、研究・実践活動を行う。

例えば改革テーマの具体的な例としては、高齢化の問題、環境創造 (高瀬川に蛍を飛ばす)、JV(ジュニアボランティア教育)、小学校の跡地利用、中国帰国者の教育などである。

 この特別講義は、それぞれの改革テーマの発表と指導の後実施されたものである。

(なお、京都政経塾は都合により既に閉鎖されている)

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