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第7章 目標の具体化とその実践

7-1 現状の調査

 幸之助さんの本を読むとね、書いてあるんですよ。「君たち、大学時代、一生懸命勉強してきたやろから、もう知識というのは捨てなさい。知識の奴隷になんなさんな」と。要するに、学校の知識は人生の中における問題解決の役にはなにも立ちませんぜと言われたんですよ。だから、もう、はっきりいってガツーンときましたよ、そのときは。

 ただ、そのことを、これを勉強していたおかげで、塾を出てからどれだけいま役に立っているか。つまり、航海図が外れたときに、どこをいま走っているのかというのは、ふつうの人の地図は小さいから、どこにいるかわからないのね。それと目標がはっきりしてないから、どうしたらいいかわからないんですよ。そのことが、このことをやったおかげで、自分で修正できるようになってきたんですね。その意味では非常によかったなと。それとまあ、頭の中の切り換えができたなと。学者になるんだったら知識だけでもよかったんでしょうけど、実務家になるんだったら、たぶんそのことは、色々(先輩から)言われたことは正解だったなと思います。

 実はそれからが、発心もあるのね、変な話だけど。いまに見とれと。お前の言った素直な心を解明してやると。

 ところがね、おかげで助かりました。政経塾っていうのは、まさに知識を全部捨てて、ゼロから、原点からやるっていう、ここからが政経塾での話。まず現状の調査から始めようということで、ここに書いてあるように、自分の考えたことが本当かどうか。実際、日本はなにをやっているのか。つまり、冷静にいまやっている具体的な事実、これを調査したり、ヒアリングしたり、実際見に行ったりしました、ここでね。それから、実際に現場に飛び込んで体験してみるということで、実は、本で読んだこととか人に聞いたことっていうのはあまり腹に入ってこないわけ。

 頭で理解できても、胸で理解できないし、腹で理解できないのよ。胸っていうことはハートでもって、つまり、仁ですね。思いやり。お役に立とうという精神。それから、腹っていうのは意志の世界。つまり、腹を決める。腹が座る。魂が入っているから、なにがなんでもやるぞと。

7-2 知識を捨て現場を体験する

 ここにある塾の卒業論文にじっくり書いています。(資料編 p11)ちょっと概略だけ触れると、私がいろいろずっと研究していったら、まさに自分と同じ問題意識を持って、まさにシステム思考で、世の中の近代合理主義のパラダイムを転換していこうということでやっているフランク・バーンズという人に巡り合ったんです。この人はベトナム戦争でアメリカが負けたときに、どうしたらアメリカを再生できるのかということを研究したペンタゴンのデルタ・フォースという秘密プロジェクトがあって、そこのリーダーをしていた人です。非常に有名なプロジェクトでした。

 そこに手紙書いて、直訴状送って、ぜひ、あなたの下で弟子をやらしてくださいということでお願いをしました。それで研修に行ったのが、彼が作ったメタシステムズ・デザイン・グループという会社です。

 私はここで、なにを体験したかというと、まさに自分の思い描いていたイメージ、これをしたいんだと。そのものがそこにありました。これはすごかったね。そのことはこれを読んでいただければわかります。つまり、今日お伝えしたいのは、私がなにをやったかということよりも、自分のイメージするところに入り込んでみる、一緒に仕事してみる。そうするとね、なにがわかるかというと、ここに書いてあるようにね、問題の要点とツボがわかってくるんですよ。

 世の中の本というのは、こうこうこうしなさいということで箇条書きしますよね。第一になに、第二になに、第三になにと。これが解決策であるとかいうけども、解決策というのは因果関係があって、こっちとこっちと因果関係があったり、こっちとこっちが因果関係にあったり、それが結びついてきたりね。ああ、ここを攻めたらこう動くんだなとかね。いろいろあるけども、ここをポイントとしてやったらできるんだなとか、こういう形のノウハウをやったらできるんだなという、結局ね、そのへんの奥行きとか意味が理解できてくるんですね、体験を通じて。

 だから、京都で蛍を飛ばすのなら実際に蛍を養殖してるところに行って、自分で蛍の養殖をしてみる、手伝いをしてみる、時間があれば。1日でもいいでしょう。あるいは現場へ行って見せてもらう。ああ、なるほどな。カワニナってこんな形をしていて、こんなふうに水草を食べるのかと。この草はこんなに柔らかいのかと。人間でも食えるかなって食ってみたりとかね。まあ、なんでもいいんですよ。そうするとね、ああ、なるほど、そういうことかっていうのがわかってくる。

 幸之助さんは言いましたね。「砂糖がどれだけ甘いかって、学問で、本で研究してもわからない。なめてみたら一発でわかる」と。そういう世界ですわ。まさにこれは政経塾らしい研修の仕方でしたね。

 それで、重要なのはその次。思索してみるんですよ。なるほど、ここではこういうふうにできるなと。なるほど、こういうことかといって、やったことを振り返ってみて考えてみる。どうしたら今のぼくの問題意識、課題を解決できるか。この思索するっていうことがものすごく重要です。知識を詰め込むのもけっこう。経験を詰め込むのもけっこう。しかし、頭の中のプロセッサーを回さないと、プログラムを回さないと、いいものに加工処理はされません。これが実行できないと自分の言葉にならないのね。所詮、だれだれ教授はこう言いました。どこそこの先生はこう言いましたっていうのをツギハギ合わせるだけだから、人に言ったときのインパクトに欠けます。

7-3  自分のプランを実行してみる

 さあ、これからです。自分のプランを実行してみるということで、アメリカでもっと残って仕事してくれということを言われました。しかし、日本でいっぺん自分でやってみたいということで、いわゆるテクノロジー、コンピュータ・ネットワークを通じて新しい時代の文明を切り開きたいと。人間の意識を進化させるんだという問題意識を持ってやりました。

 最初、日本に帰ってきて、就職に困りました。卒業年度の12月までいたのよね、アメリカに。帰ってきて、卒業論文の中でまとめ役をやったんですよ。だれもやる人がいなかったから。そうこうしていたら、2月ぐらいになっちゃいましてね。もうほかの連中は進路先が決まってるんだけど、ぼく一人がフラフラで、当時持っていたお金が40万。もう卒業の当時、親には頼れないと思っていましたから、困ったなと。東京に行って活動しようと思ってアパート探したんだけど、当時、バブルのちょうど入口ぐらいで、家賃が5万かかるんで、生活考えると、3ヵ月以内に話決めなきゃいかんなと。あのときは困りましたけどね。

 そんなこんないっているうちに、政経塾で政経ネットをやってくれと当時の上甲塾頭から頼まれた。で、政経ネットって、政経塾の塾員と連絡網を作ってやってるんですが、それを作って、自分の考えていたイメージ、勧誘企画のコンセプト、それを塾の名でやるということで、塾の中でズバッとやったんですよ。

 ところが「正しい目的のためにやるのだからすぐに広がるだろう」「アメリカで研究してきたから、日本でもやれるだろう」と思っていたら、大間違いで、全然進まないんですよ。いろんな壁がありました。

 ところが、壁にぶち当たって突き破ることが本当は成長なんですね。そう思ってください。壁にぶち当たったら、おお、もうけたと思ってください。ぶちやぶれなかったら挑戦が足りないということだと思ってください。壁にぶち当たると「アッ、できる」「これでやれる」っていう自信がわいてくるんですよ。

 あと重要なのは、壁が破れたら、その本質はなんだったのか、問題の分析をしてください。なぜ破れたのかという分析をしてください。これから皆さん、改革の壁にたくさん当たると思います。いろいろ苦しんで、仲間に助けられながら破るかもしれないけども、なぜそれが壁だったのか。特に意識の壁、人の心の壁っていうのが一番大きいです。人の心の壁を破るっていうこと。なぜ突き当たったのかということ。このことをじっくり反省してください。

 で、突き破れたときには、まさにそのことが皆さんの新しい、また次のページを開いたことだと思ってください。そこで大きなノウハウが培われるはずです。そのことを分析したら、頭の中だけに置いとくとすぐ忘れるからね。必ず書き留めて。

 実は私、このコンサルタントをやっていると、ここだけじゃなくて、いろんなテーマがあるでしょう。いろんなテーマで、とにかく、ヒッチャカメッチャカになってるんだけど、そのことをチャンポンにやると普通は結びつかなかったようなアイデアがどんどん結びつくんですよ。違うアウトプット、異質なアウトプットを要求されるから。そのヒラメキを全部このノートにずっと書いてあるんです。大学時代、このノートが7冊ぐらいあって、ずっと書きためてて、ここに思いついたこと、あるいは、重要な本を読んで、これは書き留めておかなきゃいけないこと。ずっと書いてあるんです。

 今日お話した話も、ここの中の3、4ページをかみくだいてお話をしているということなんですが、こういう習慣をつけると、必ずあとで、安心して忘れられるんですよ、重要なことが。ということで、そういうことをやってみたらいいです。

 それと、自分で失敗するのが一番いい経験です。世の中には失敗なんてものはないと私は思っています。そういう種類の経験をしたんだと。7回転んだら8回起き上がったらいいわけだからね。要は、起き上がることに人間の進歩があるわけでしょう。

 だから、私はこう考えるんですよ。すんだことはクヨクヨしない。誰が悪いとかあれこれ言わない。振り返って次に活きるんだったら振り返る。重要なのは、これから先、どうするかということだと。

 風に飛ばされたら飛ばされたでしゃあないですよ。台風だってしゃあないでしょう。風や台風うらんでみたところで、事態は解決するものじゃない。

それに風や台風のせいにして、また努力せずにまた同じこと繰り返したら、

事態は一向に改善しない。要は、(ふっとばされたら、ふっとばされたで

あれこれいわず、備えを怠った自分が悪いんだと素直に反省し、)そこから直ちに次の目標まで線を引き直して、また同じように最小資源でもってどう辿り着くかをやったらいいわけでしょう。我々の問題はだれかを攻めることでもないし、振り返ってグチグチ言うことでもないし、到着点に着くことが目的だから。そう考えたら、人生、楽ですよ。前向きに明るくなってくるから。

 そういうことをやってみる。そうするとね、重要なのは失敗の経験なんですよ。世の中のいろんなコンサルタントが成功の経験から成功要因を抽出しているけど、もっと重要なのは失敗要因からなぜ失敗するかを分析することです。その失敗の轍を踏まなかったら、ほぼ成功します。

 成功要因というのはいろいろな、運、不運というかね、幸運がたくさんあって成功しているケースが多いから、それを真似しようと思ってもうまくいきませんわ。失敗している方の研究のほうがよっぽどうまくいきます。

 で、自分で失敗するのもいいんだけど、賢くなると、他人の失敗を見て勉強できます。これが非常に重要な勉強です。失敗している人を見たら、あいつ、なんで失敗してるのかなと研究してください。だから、ここの仲間の中でうまくいってない人間がいたら、なぜ、うまくいってないのかっていうのを分析してみたらいい。そうすると、必ず活きた材料になります。そのことの答えを出したら、その人にフィードバックしてあげてください。

 成功するまで続けること。ただし、創意工夫をして、いつも手を変えてみるということですよね。 

 さあ、このへんがぼくにとってはどういうときかというと、政経塾でいろいろ政経ネットをやらせてもらって、そのあと実は松下電器でも全世界のパソコン通信ネットワークをやらしてもらって、半年間で世界30ヵ国を回らしてもらったんですよ。(資料編p24)

 いいでしょう、他人の金よ。これでぼくはね、ホント、世界観変わった。また今度飲んだときにゆっくりこの話するけど、この話しだすと3時間ぐらい止まらない、おもしろい話たくさんあるから。それまでいろいろうまくいったんだけど、やっぱりその間に壁がたくさんあったんですよ。その壁を破って、なぜ、そうなっているのかと。

7-4 キャリア開発

 その次に、最後、社会的にどんな立場で継続して行うのかという、キャリア開発。つまり、私は最終的にコンサルティング会社社長という立場をつくったわけね。このことは結果なんですよ。最初に、おれは社長を目指そうとか、おれは政治家を目指そうというんだと、本当の政治家になれなくて、実は、おれはこの世直しをして、このテーマを追い掛けたいということでやってったら、政治家というポジションが一番よさそうだなというんだったら政治家をやったらいいし、企業のほうがいいなと思ったら企業をやったらいいし、財団法人がよかったら財団法人をやったらいいんですよ。そのことが自分の一生を通じた生きがいの開発になるんですね。

 この形をつくったら、次に再生産の話ができてくる。輪がデカくなってくる話ができてくるんですね。形をつくることによって、やってることを社会が認めてくれるから。認知してくれるようになるんですよ。

 そうなると、次に書いてあるように、だれに評価してもらうのか。お客様はだれか。その報酬、評価。さっきの一番下のおダンゴの話ですよ。お金なの、名誉なの、権威なの、ポジションなの、それとも論文が表彰されることなの、いろいろあります。このことは必ず最後に意識してください。なぜならば、評価されない仕事っていうのは、本当の意味で世の中を変えるってことにならないですね。そりゃ、死んでから認められたっていう人も歴史上の人物にはいるけれども、はっきりいって、いまの世の中、ぼくらが死んでから認められるぐらいの、そんな危機の状況じゃないですよ。時間の猶予はないということですわ。ただ、気楽にやらなきゃイカンけどね。

 継続していくためにはどういう組織で行うのか、どういうポジションで行うのか。それから管理の話が出てくるんでよ。どうやったら、もっと効率よく資源の配分ができるのか。どうやったらもっと喜ばれるのかっていう管理の話が出てくる。それからライバルはいるのか。ライバルといっても提携してもいいんですよね。一緒に手組んでもいいんです。競合するの。競合するんだったら、腕の競い合いをしなきゃいけないね。どうしたらもっといいサービスができるの、お客さんに喜ばれるのといわれて、どんどん進化、発展をさせていきます。

 そうなると、このことによって人生航路への船出がようやくできるわけです。船ができて、目標が定まって、準備ができて、自信もできて、準備航海もしたし、ようやく船が出帆できるということです。

 そうすると、ここに書いてありますように、現実に効果の上がる解決策が実現できるようになったか。いや、自分の手でできるようになったか。ほかの人にはできない自分らしいやり方か。さっきの劇場に例えると、私の場合は舞台の上に上がる主役はやりたくないんですよ。やりたくないっていうか、向かないからね、こういう不細工なやつはね。そういうのは、もっとカッコよく、スマートな政経塾の代議士なんていう人たちに任せておけばいい。

 私がやりたいのは、その監督をやりたいんですよ。あるいは演出家をやりたいんです。私の美学っていうのは、最高の改革のドラマを見て映画を見ると、最後のバックタイトルでずっと流れるでしょう、字幕が。キャストとか。ふつうあの途中でみんな帰っちゃうじゃないですか。ああ、よかったわって。最後までずっと、余韻を見てくれるっていうのは本当に感動した映画だけなんだよね。最後に、ものすごく小さい文字で「監督:宇佐美泰一郎」っていうのが出てきて(笑)。だから、劇が成功しなかったら絶対見てくれないんですよ。しかも、余韻を楽しむっていうか、そういう劇でなかったら、そこまで見ないわけね。そういう立場になりたいなと。これはなりたい自分です。そういうことを私は目指そうとしてるんですね。

 ということで、実は皆さんが主役です。私は監督をさせてもらいますから。別に監督だからえらいっていうわけじゃなくて、監督だから、逆に下支えするんだけどね、劇の。皆さんは主役だから、持ち上げなきゃイカンわけですよ。皆さんがやれたら、逆にいうと、最後の1行に「監督:宇佐美泰一郎」と書いていただけるとね、ああ、このドラマ、よかったなと主役が引き立ったと。主役が生き生きとやったということになりますから、ぜひ、皆さんの論文がうまくいったら、最後に「監督:宇佐美」って書いてください。小さい文字でけっこうです(笑)。

 次に、こうなりますと、結局その手応えがあります。充実感が得られる。ライフワークとして続けたいと思う。まさに人生の航路です。ところが、本当の意味の改革、志っていうのは、実は出帆して、何度も何度も嵐を経験し、死ぬとか生きるとかっていうことを経験してはじめて、船長としての自覚ができるんですね。その都度、生きるか死ぬかをやりながら、壁をぶち破って、それで、できる。できるっていうことになってくると、腹が座ってくる。

 最後、どうなるかというと、今度は皆さんが社会から期待されるようになります。

 ボランティア教育を進めるのだって、やりかけたのなら最後までやってよ、いいことじゃない。一緒に文部省に行くわって。そうなるでしょう、おそらく。

 そうすると、社会に対して責任を感じるようになるはずです。最初は自分のやりたいことで始めたんだけど、皆さんが今度は船長になるはずです。気付いたときには、乗組員がもうたくさんいて、乗客が乗っています、お客さんが。で、どんどん邁進する間に、知らない間に、皆さんの船が大きくなっているはずです。

 そうなると、あとには引けなくなりますよね。腹くくらなきゃダメですよね。なにがあってもやり切る覚悟がないとダメですよね。

 で、最後、自分がこのことによって責任も感じ、腹も括り、本当の喜びを感じられるようになったら、自分丸の船長の使命感と志が確立すると。さっきのおダンゴの軸がズバッと通るんですよ。

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