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第3章問題解決のプロセス

3-1 問題解決の全体

  本書では、一口に問題解決といっても個人で行う問題解決のように簡単なものではなく、会社など組織や集団として行う時間もかかり難解なものを中心に取り上げる。さて前章に述べたシステムズ・アプローチをもとにした問題解決の全体の流れを見るとこの問題解決のプロセスは、全体に分けると、「A 改革気運の醸成」、「B 問題解決案の作成」、「C 解決案の実施」という3つの工程からなりたっている。

  最初の改革気運の醸成の段階では、現実の悪さ加減を直視し、公平無私で改革へのやる気にあふれるキーパーソンを中心に徐々に、集団としての盛り上がりが出てくる段階である。次に、問題解決案の作成の段階では、問題を分析し、解決案を色々と出し最終的に実施案を意思決定し実行計画を練り上げるフェーズである。最後に、解決案の実施において、実施案を組織として承認・オーソライズし、モデル実験、本格実施と進めていくのである。

3-2 改革気運の醸成

(1) 改革への思いの高まり

  まず初めは、「改革への思いの高まり」である。「改革しよう」という気持ちは普通、現状への強い危機感や将来への不安、あるいはさらに向上しようというやる気、そして集団の盛り上がりなどから生まれてくる。

ここでのポイントは、それぞれのやる気、危機感、盛り上がりが「呼応」「共鳴」しているかどうかということである。単に一人の問題としてではなく集団の思いとして本音の対話が為されているか?が問われる。こうして改革への思いが高まるとそれが改革全体のパワーであり、推進力としての起爆力となる。

(2)STEP 1 改革課題の共有化

  次のステップではお互いの課題認識をぶつけあい、集団としての目標を共有化することである。お互いに立場が違えば、それぞれ見方考え方が異なってくる。そこで組織全体として何を目標とすべきかか話し合われることになる。

3-3 問題解決案の作成

  さて全体として『さあ、やろう」ということになると実際の問題解決案(改革案)の作成の段階にはいる。ここではまず問題の切り口(たとえばロスコストの削減、労働時間の短縮、リードタイムの削減、品質向上など)である「問題設定」から始まり、次に現状はどうなっているか、そして根本課題は何かという「問題把握」を行う。そして具体的な「目標設定」、「解決策の策定」。最後に「評価検討」を行う。ここでのポイントは解決案を作り実施に至るまでの時間である。如何にスムーズに要領良く作り上げるかが決め手であり、以下はその具体的なステップである。

(1)STEP 2 鳥瞰図作成による全体像の把握

  鳥瞰図とは、鳥のように空から組織全体あるいは問題の及んでいる全体像を眺め、ビジュアルに絵にして表現するものである(詳細は第7章)。

こうすることで単に一部門の立場や利害に囚われた意識を全体的なものに広げられる。しかも普通は個々人の頭の中のイメージが異なるものを共通のイメージで議論できる土壌が整うのである。

  このステップでは出来る限り多くの知恵を集め、一つの側面からだけではなく、できるだけ多面的かつ、課題の全体像をとらえ全員の確認をとる。改革の対象となる問題というのは、通常色々な組織をまたがったり、相互に複雑な関係にある問題が多く発生する。そこで重要なのは、課題と課題の相互の連鎖関係や、組織と組織の関係を鳥瞰図としてビジュアルにとらえることである。

  例えば次の図は、ある卸業を営む営業部門で、得意先からの受発注業務が複雑だという課題を鳥瞰図として捕えたものである。この例のように、受発注業務が大変なのは実はセールスの押し込み営業や商品の仮押さえのため品切れが多く、結果として受発注システムが使えないため、電話やFAXで対応しなければならないという意外な結果になっている。

(2)STEP 3 ナゼナゼで根本要因にさかのぼる

  トヨタのカンバン方式の生みの親である大野耐一氏は「ナゼナゼナゼと5回繰り返せ。そうすれば問題の本質に突き当たる」といった。このことは問題解決ではきわめて重要である。

  ナゼナゼと問うことで、現象面で見える課題の根本要因を探り出す事が出来る。例えば「在庫が多い」、「違算が多い」、「伝票処理が大変」というような問題も「何が原因でそうなったか?」を明らかにすることで、より表面的な問題からより根本的な原因にさかのぼることが出来る。この結果、より根本的な要因を探り出すことが出来るのである。

  例えば、次の図はある製造メーカーにおいて最近急激に在庫が増えたのはナゼなのかをどんどんと追及していったものである。

  ナゼナゼという結果をこうしたまとめたものを「ナゼナゼ体系図」と呼ぶことにする。このナゼナゼ体系図の目的は、主に以下の3つある。

  • レベルの深彫り ナゼを深彫りしていくことで「原因-結果」「原因-結果」をさかのぼることができる。たとえば始めは担当者レベルの業務レベルでの課題であったものが、管理レベル、経営レベルへと高まるものである。
  • 原因の網羅的整理  問題が発生したとき、自然とその問題の要因の分析を頭の中でおこなうものである。ところが集団で問題を解決する場合、人によってその原因の捕え方が違うものである。「あなたはそういうが、わたしはセールスの怠慢が原因だと思う」「いや生産過剰が問題だ」というような対立はよく見受けられる。ナゼナゼ対系図はこうした色々な人達の原因分析をすべて網羅的に整理し対立を解消しようというものである。
  • ターゲット要因の決定さらにこうしてまとめられた対系図は、事実調査などを通じて、どの要因がもっとも大きなものか?あるいはどのレベルの要因にターゲットを絞るべきかをはっきりと目で見て分かる形に出来る。上の例でいけば、「事実調査の結果主力商品の急激なモデルチェンジで商品力はあってもセールスの商品説明が不十分で   ある」事が判明すれば、「レベル4の商品説明力が弱い」を問題解決のターゲット要因に絞ることができる。

 ナゼナゼ対系図の効果的な使い方は、当初問題の所在や根本課題が分からないときに色々な人達にヒアリング調査し終わった後、整理をし要因全体の地図を作るという段階である。この事で何が問題か?という一つの仮設が生まれる。これを次のステップの事実調査で裏付けることが出来る。

  【ナゼナゼ対系図作成上の注意事項】

 ナゼナゼ対系図を作っていく上でうまく展開できない場合や途中で止まってしまう場合、以下の様な要因が考えられるので注意を要する。

  • 言葉の定義をはっきりと
     よく「セールスの対応が悪い」とか「商品力がない」という表現でそれ以上展開できなくなるケースがある。
     これは、セールスというのは具体的にどの様なセールスなのか?対応とはどういう対応なのか?という詳細にまで言葉の定義をはっきりとする。
  • 情報不足は聞きにいけ
     自分の部門だけの調査や特定の部門だけの調査の場合、情報不足で推測でしか書けない場合がある。
  • 犯人捜しはしない
     「あいつが悪い」「どこが悪い」という表現で終わってしまうとそれ以上進まなくなる。「何が悪いのか?」「どうして悪いのか?」『なにがそうさせるのか?」と考えていくと始めて一層の展開が進む
  • 自分の立場だけで考えている
     経理なら経理の立場だけで考えているとナゼナゼが浅くなるし視野が狭くなる。「自分がもし営業の立場なら?」「得意先の立場なら?」と考えないと問題の細部までニュートラルに見えない
  • 因果関係が循環する
     「元気がないから売れない」「売れないから元気がない」というような、にわとりが先か卵が先か?というように原因と結果が交互になりどちらも原因でもあり結果でもある場合がある。この場合は、矢印を相互にいれて表現する。

(3)STEP 4 徹底的な事実調査

  ここまでのステップは主に関係者からのヒアリング調査などからまとめることが出来る。そしてその結果、一つの仮設ができ上がるはずである。つまり、この問題の原因は「**だろう」ということである。しかし、「その仮設が正しいかどうか?」あるいは「具体的にどの程度の悪さ加減かどうか」は現場に出向き、事実を調査してみる必要がある。具体的には

  • データによる裏付け調査
  • 現場に出向き現物に当たる
  • 関係者の本音を聞き出す
  • 現物の帳票など当たる
  • サンプリングして個別の事例を追う   など

  その結果、新たな事実が分かったり、具体的な要因が絞れて、より問題の核心がつかめてくる。

  なお「STEP 2 鳥瞰図作成による全体像の把握」、「STEP 3 ナゼナゼで根本課題にさかのぼる」、「STEP 4 徹底的な事実調査」の各ステップはグルグルくりかえしながら進める事でより現状の姿をクリアにして行くことが出来る。

(4)STEP 5 問題の本質を突き止める

  さて、ここまでの段階で問題についての情報の収集は終了する。次には「その本質は何か?」「根っこの課題はなにか?」を追及していく問題の分析の段階にはいる。ここでは、STEP 4までに集めた情報を集約整理し、下記の様な手順で分析を行う。

  • 類似の問題をKJ法などで括りなおす(下図参照)
  • 問題相互の因果関係、相関関係を明らかにする
  • 問題の構造を再度立体的に組立て直す
  • 各問題にウエイトづけを行う(課題の重要度、緊急度)
  • すべての問題を総括して『一言』で言い直すことによってコンセプトを明らかにする

  ここでは、こうした上記の分析作業をプロジェクト・メンバーの間で徹底的な集中討議を行うことによって進める。ここでの議論を経ると問題だと思っていたことが集約され、普通2つとか3つに絞り込まれてくる。

  色々なプロジェクトが表面的な課題解決に終始してしまうのは、このSTEP 5 を飛ばしたり、あるいは十分な時間をかけないために起こる、「もぐらたたき」現象なので、特に注意を要する。

  (問題の大きさにもよるが)このステップは問題解決の前半戦の山場であり、大きなエネルギーと時間を要する。どこかの会議室にこもって何時間も集中的に考える大変さがあるが、反面プロジェクトの正否を分けるポイントでもある。

(5)STEP 6 課題要因の整理

  さてここまでくると根本的な問題も明らかとなってくる。次に重要なのは、関係者を集めて課題の共有化をおこなうための課題報告会の準備である。この課題報告会では、以下の項目を訴求する必要がある。

  • 問題の実態はどうなっているか?
  • その程度はどの程度か?
  • 何がその根本要因か?
  • そのうち何が最も重要で緊急なものか?
  • ようするに何をしなければならないか? 
  • 何に一番力をいれなければならないか?

   この報告会で用いる資料の作成を行わなければならないが、STEP 5までで収集・分析した情報をまとめて整理するために、大きく絞り込まれた要因毎に番号をつけ(例 『G1 情報伝達の不備』,『G2 営業姿勢』など)、STEP2 で作成した鳥瞰図の上にマッピングし直してみるとわかりやすい。

(6)STEP 7 徹底した事実の追加調査

  この段階で多くの場合、手元の情報の不足や足りない項目、全く盲点になっていた点などが明らかになってくるものである。そのために新たな追加調査が必要になる。この結果、課題報告会のために必要な資料が最終的に整うことになる。

(7)STEP 8-1 目的・価値観のすり合せ

  次のステップは目標を定めるための価値観、意識のすり合せのステップである。これまではどちらかというと現実の悪さ加減を直視することが中心であったが、ここでは前向なビジョンや夢に意識を集中させる。

  まず、先ほどとりあげた決算日数短縮の場合、「決算そのものの目的は何か?」という目的(機能)をはっきりさせる。「何のために決算をするのか?」という問いを繰り返すことで、どんどんと高いレベルの目的が展開される。「事業の結果を数値で表わす。」→「事業の努力の成果がどの程度であったかをしるため」→「過去の事業の内容を反省し次に活かす」→「どこに問題があったかを知り対策を打つ」→「より事業を発展させる」→「事業の発展を通じて人類社会に貢献する」という具合である。

  このステップは一見あたりまえであるが、それぞれの仕事や組織の機能、ミッションを再度定義しなおす意味で重要である。また利害のことなる組織のメンバーがこの議論に参加することでより上位の目的が共有出来、対立を解消することもできる。

  そして最終的には、「事業の結果を数値で表わす」という従来の意識を例えば「どこに問題があったかを知り対策を打つ」という点に重点を移して

考え直そうということで意識が一致したとなると、問題の解決策を考える上での方針なりコンセプトが明快になり、この方向に沿って具体的な問題解決案が考え出されることになる。このSTEP 8-1のステップは次のSTEP 8-2とリンクしながらグルグル循環し進む。

(8)STEP 8-2 あるべき姿・目標の検討

  このステップは、改革の具体的なゴール、着地のイメージの全体像をビジュアルにはっきりさせようというものである。例えば「5日決算を3日決算」にする場合、3日決算が実現した場合のフロー図を書くという事になる。色々なプロジェクトの計画書をみると「決算の早期化」とか「**業務の機械化」などように着地があいまいに書かれているものが多いが、これでは目標が定かでなく、取組が弱くなったり、結果として成功したかどうかの評価もあやふやになる場合が多い。

  1章で述べた改善型の問題解決の場合は、このSTEP 8-1 目的・価値観のすり合せ、STEP 8-2 あるべき姿・目標の検討のステップは特に深彫りする必要のない場合がおおいが、改革型の問題解決の場合、何を目指すのかという目標そのものの意見が大きく分かれる場合が多く、特にこのステップは比重を増すことになる。

  このSTEP 8-1、STEP 8-2は、とりわけ担当者や中間管理者層よりもむしろ組織のトップや戦略立案部門により強く要求される思考プロセスであり、よく「このステップどう考えるのか非常に難しい」という指摘を受ける。目標やビジョン、方針をはっきりさせるのは確かにトップの役割であり

当然そこには資質に基づく部分が大きいが以下のような発想方法が参考になる。

  1. トレンド法
     グローバル化、情報化、環境、教育、福祉、生活者の視点などといった時代の変化など主に環境変化の中でどのような問題が生じどのような姿になれば環境に適応できるか?という発想
  2. 類似発想法
     他社事例、他業界の事例、他国の事例、歴史上の過去の事例あるいは類似的な事例から発想する方法
  3. 本質思考法
     本来どうあるか?何が本質か?企業の役割は何か?昔の偉人はどう考えたか?など本質や基本的理念に立ち返って考える。
  4. 戦略的思考法
     主たる顧客(市場)は誰か?顧客のニーズは何か?顧客の求めるものは具体的に何か?ライバルとの差別化のポイントは何か?どうなったら勝てるか?
  5. 夢・ビジョン法
     10年後の自分の夢は?どんな会社にしたいか?どんな仕事がしたいか?どうしたらハッピーでうきうきしてくるか?
  6. 強み強化法
     今の強みをより強化する発想。速いものをより速く、きめ細かなものをよりきめ細かくなど
  7. 価値観軸転換法
     コスト(金額)重視から時間重視へ、業績(結果)重視から満足重視へ価値観を別の軸へ変える発想

(9)STEP 9 解決案の洗いだし

  ◯(現状)→□(あるべき姿)がはっきりした後は具体的にそのギャップを生めるための解決案を考える段階である。ところで、一般に問題解決案は以下のような3段階で発展していく。

  1. 着想の段階
     色々なアイデアは単なる発想やひらめきという「着想」の段階。自由な雰囲気でユニークな発想が数多く必要。ブレーン・ストーミングなどを使って他を批判することなく、どんどんと発想を展開させていく。(STEP 9)
  2. 企画構想の段階
     色々な着想を組み合わせ練り上げられて「どうすればこうなる」というシナリオ・ストーリーが構築されて「企画構想」の段階。通常、A案、B案、C案などいくつかの案に絞られてくるので、その評価と選択、意思決定を行う。(STEP 10-1)
  3. 実施計画の段階
     さらに誰がいつ何をどうするか?という5W1Hや推進上の課題に対する対策(STEP 10-2)や費用対効果、そして着地までのスケジュールや中間チェックの仕組や成否を計る物差しづくりを組み込んだ実施計画の段階。(STEP 11)

 STEP 9 解決案の洗いだしのステップは、この中のA.着想の段階に当たる。 この場合注意すべきことは、当然色々なアイデアが出てくるが、この際「効果が薄い」とか「お金がかかる」、「結果が出るのが遅い」、「解決に時間がかかる」などという解決案の評価をすぐにしてしまったり、あるいは、「得意先の理解を得るのが難しい」、「本社が納得しない」などの推進上の課題をいって、せっかく出てきたアイデアをつぶしてしまう事が多いことである。

  大脳生理学では、「アイデアを出す」作業と「アイデアを練り上げる」作業そして「アイデアを評価・決定する」作業は別々の頭の使い方をする別々の作業といわれる。一人で問題を考える場合は、この作業は自然中で推移するのだが、ところが問題は集団で考える場合である。

  画期的なアイデアや積年の壁を突破(ブレイク・スルー)するような構想の素になる発想というのは、それが十分練り上げられる前には、概してこうした批判によって芽をつまれてしまうがちである。大企業になれば、規制概念に囚われた年配の人達が多く、こうした「アイデア・キラー」たちの巣窟である場合が多い。このため、コーディネーターによってステップをきって会議を進める方法やあるいはSTEP 9 解決案の洗いだしの段階は少人数に絞って会議を行うなど注意を要する。

(10)STEP 10-1 解決案の評価

  上記でしめしたB.企画構想の段階である。色々な着想を組み合わせ練り上げられていくつかのアイデアに収束していく。その後、それぞれのアイデア毎に「このアイデアを実行すればこうなる」、「最初にこうしてその後こう展開し最終はこういう着地になる」というシナリオ、ストーリーが構築される。このシナリオの構築の段階で先に検討したSTEP 8-2 あるべき姿・目標がより具体的に鮮明になってきて現実味を帯びてくる。(あるいは場合によっては、それぞれの案の検討の段階でもう一度STEP 8に戻って再度検討される場合もある。)

  次にA案、B案、C案などいくつかの案に絞られたものの中から、どれがいいのかという評価と、最終的にどの案を選ぶかという意思決定を行う。

  どの案をえらぶかという段階になると、大体「この案は効果が薄い」、「いやこちらのほうが結果が速く見える」、「いやそれだと手間がかかってまずい」というような議論になって収集がつかない事が多い。そこで、はじめは一通り議論したうえで、上記のような表にまとめると集団での意思決定に役立つし、また議論に参加しなかった第三者でも議論のプロセスが分かりやすい。まず、議論の中で出てきた色々な評価尺度の整理を行う。そのうえで各評価尺度毎にそれぞれの案を評価して見る。

  さらにその上で今回はどの評価尺度にウエイトを置くべきかを議論し、どの案がいいのか、さらに検討する。(この表にSTEP 10-2 推進上の課題も追加するとより分かりやすい)最後に全体を通じての総合評価を加える。

(11)STEP 10-2 推進上の課題の整理

 解決策を実施に移す前に、それぞれの案について「それを実施していくと為った場合、どんな問題が発生するか?」、「事前にどんなことをしなければならないか?」などの推進上の課題を整理する必要がある。こうした推進上の課題を整理し、事前にその対策をたてておく分けである。

   改革を行う上で、必ずといっていいほど、推進をする上での課題、つまりネックになる要因が表われる。例えば、「特定の幹部の了解がとれない」(政治的課題)、「計画した予算が急に出なくなった」(経済的課題)、「コンピュータに詳しい人間が急にやめてしまった」(技術的課題)

「新しい解決策だと一時的に売上金額が減ってしまう」(心理的課題)、「プロジェクトのコアメンバーが転勤して期限に間に合わない』(時間的課題)、「プロジェクトルームが工場改装のため取り壊される」(物理的課題)などなどである。

  予期せぬ形でこうしたプロジェクトの進展を妨げる要因、あるいは新たな制約条件などがいろいろな形で噴き出すもの。「事前の一策は事後の百策にしかず」という言葉にあるように何事もやり始める前に、色々なパターンを想定し、その対応策を準備しておけば、成功の確率は高まる。このときは、STEP 9 解決案の洗いだしの時とはことなり、頭を悪魔のように意識転換する必要がある。

  第3章の最初で示した図5 システムズ・アプローチによる問題解決のプロセス(全体)にあるように、いざ改革ロケットができ上がって、目標に向けて飛んでいっても、成功する場合もあれば失敗する場合もある。そして

その分かれ目となるのは、この推進上の課題を如何にうまく克服するかにかかっている。こうしたいろいろな壁を乗り越えて初めて改革の成功にたどり着ける。

  そして成功している事例は、最初の段階で「何のために改革をするのか、本当にこの問題の解決は必要なのか?」という改革気運の醸成の段階が

鍵を握る。ポイントは改革への起爆力(ダイナマイト)の力の強さである。

3-4 解決案の実施

(1)STEP 11 実施案の企画書作成

  今度は、検討し評価決定された問題解決案を以下に実施していくかというステップである。実施計画の段階を細部にわたり検討し、企画書を作成し組織的にオーソライズするための準備である。この企画書に盛り込むべき項目は、以下のようなものである。

  • テーマの背景、目的、狙い、コンセプト
  • 現状の実態(現象、各種データ、鳥瞰図、課題一覧など)
  • 現状分析と根本課題
  • 解決策(何をすべきか?あるべき姿と方向性。どうしてその案が有効か?効果と狙い。他の案との比較)
  • 実施計画(誰が、誰を巻き込んで、何をいつまでにどのように実施し、その結果、どのような成果を見込むか?)
  • チェック・フォロー体制(中間チェック、成果を計る物差し)
  • 今後の課題(推進上の課題と対策、今後の発展展望)など

  あくまでもこれらの項目は一つの雛型であってプロジェクトの内容によっては色々なバリエーションが考えられる。ここででき上がった企画書はプロジェクトの命でもあり、これを見ればそのプロジェクトがどれほど充実し練り上げられたものか一瞬にして判別できるものである。

  よく見られるまずいケースは「現状分析と根本課題という深彫りがなされないままいきなり平板な解決策が導かれているようなまずいケース」や「実施計画が詳細に落とされていない」、「チェック・フォロー体制や今後の課題についてなんらふれられていない」などである。

(2)STEP 12 政治的調整(根回し)

  実際にでき上がった企画書をもとに関係部署ならびにキーパーソンへの事前の調整を行う。きわめて日本的ではあるが最終的な改革への意思の確認と協力の要請、場合によっては妨害工作の封じ込みという様な狙いがある。

(3)STEP 13 承認・組織化

  最終的にでき上がった問題解決案ならびに実行計画は、組織のトップならびに関連部署の責任者などの承認をへて実行にゴーサインが出る。ここでは予算措置、専任体制の整備、組織変更などが行われる。

(4)プロトタイプ(モデル実験)の実施・評価・修正

  組織として始めて実施するような大きな改革や多くの関係部門・組織を巻き込むような場合、あるいは新規の技術開発がともなうような場合など、プロジェクトの内容によっては、「やって見ないと賛成か反対か判断できない」という性格のものもある。こうした場合、「ある特定範囲、特定期間などを絞ってモデル実験を行って見る」方法が効果的である。STEP 14プロトタイプ(モデル実験)の実施からSTEP 17 合意形成までのフェーズはこの場合の手順である。

  STEP 14でプロトタイプ(モデル実験)を実施し、STEP 15 では、「どこがよかったか悪かったか?効果はどの程度か?」など、その評価を行い、さらにSTEP 16 でそれを改善・修正し、本番に向けて準備をする。

そして最終的にSTEP 17では本格的に実施するための組織的な合意形成を行う。ここで重要なポイントは「実験がうまくいったからといってSTEP 15での評価を飛ばしてそのまま本番に移行したり」、「STEP 16での改善修正が不十分なまま本番で失敗したり」するケースが多いということを注意すべきである。

(5)解決策の実施、フォロー

  STEP 18 (全体的)実施計画の詳細設計では、企画書に基づき、またプロトタイプの実験結果をもとにしてより、詳細な実行計画を部門別に落として作成する。次にSTEP 19 実施案の正式決定で最終的な実施計画の組織的な正式決定がなされる。またSTEP 20 実施案の実施・改善・フォローで実施案を本格的に広げ徹底する。ここでのポイントは、環境が変わったり、組織の置かれた状況が変わったりして、当初の計画通りいかない場合や予想外の課題があらわれた場合の対応をどうするかという点である。

  この場合、まず改革の成果を誰が見届け、中間段階でどのようにフォローしていくかという体制の問題がある。そのために実施段階に移行してからも成功まで見届ける事務局などを計画段階にビルトインしておかなればならない。また改革がうまく進展しているかをどう計るか?何をもって改革の成功と判断するかという点も考慮にいれておく必要がある。

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