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第4章改革プロジェクトの進め方

4-1 改革プロジェクトのパターン

  問題解決とりわけ改革のためのプロジェクトは、どうやってプロジェクトをおこし組織の中で承認された活動とするかが大変大きな鍵となる。ここでは以下の3つのパターンを紹介する。

(1)トップダウンで下ろされる場合

 改革の様な大きな活動の場合、トップの役割は非常に大きい。とりわけトップダウンによってプロジェクトが起こされる場合は、専任体制をひけたりオーソライズして予算化なども行いやすい。

 ただトップが現状の悪さ加減を十分認識していなかったり、あるいは自分なりの解決策を無理に押し付けてくるケースがよく見受けられる。この場合は現状の問題について、事実をもとに正しく報告し、理解を得ることが重要である。

(2)ミドルが引き金になる場合

 組織の課長クラスなどのミドルが引き金になってプロジェクトが起こる場合は実際の組織を動かす原動力だけに組織に落としてからの解決策の実施段階で非常に大きな力を発揮する。

 ただ、現業に追われていたり、また思った本音がなかなか上に伝え切れない場合が多く、組織として正式にオーソライズされたものにならない場合が多い。如何に上司を説得し、トップを動かすかが重要である。

(3)ボトムアップで持ち上げる場合

 現場の担当者クラスから改革のムーブメントが起こるのは現実には比較的少ない。しかし、実際には何気ない日常の仕事の中に、大きな経営課題の問題が噴き出している場合が多い。

 特に日常の問題を単に表面的に解決しようとするのでなく一歩でも原因を遡って解決しようとしたり、常に問題意識を鋭くしていると大きな課題にぶつかるものである。現場で事実を見ているだけに説得力がある分、現実的な改革になる事が多い。

4-2 各ステップ毎の改革プロジェクトの進め方

(1)改革のキーパーソン

 改革は組織の中のどこかの部門、どこかの誰かが震源地になってその影響がどんどんと広がり、結果として上記の3つのパターンのようなプロジェクトに発展してくる場合が多い。勿論、本社などの上から全社的な号令の下で行われるものもあるが、ただ成功した場合をみると必ず、その趣旨に共鳴した「改革のキーパーソン」が組織内のどこかに必ずいるものである。それが上で述べたようにあるときはトップであったり、ミドル、ボトムであったりするわけである。

(2)本音で話し合い組織全体に広がる

 図5にあるように最初の「改革気運の醸成」の段階では改革の目標はまだ漠然としているのが普通である。

 ここでのポイントは組織におけるトップ、ミドル、ボトム(現場の担当者)、あるいは関係する部門毎にお互い個々には危機感ややる気があるかどうかである。そうした潜在的な気持ちがあると、組織的に広がる素地は十分にあるといえる。

 次に個々にあったものが、それぞれの気持ちが互いに「呼応し、共鳴する」ことを通じて、組織として全体の盛り上がりが生まれてくる。そのためには、それぞれが本音で話し合える風土と環境が必要となる。

(3)「改革への起爆力」が改革成功への力となる

 図5にあるように、この「呼応と共鳴」の結果、改革を最後までやり遂げる「ダイナマイト(改革への起爆力)」ができ上がる。

 せっかく改革運動のロケットを打ち上げても成功に至るには途中に、いくつもの「改革推進上の課題」が必ず存在する。こうした課題を突破して見事改革の成功へといたるためには、この改革気運の醸成の段階でのダイナマイトの起爆力の強さが鍵になり、強力なプロジェクトチームを作る下敷きともなる。

 このダイナマイトがないと、仮に立派な計画書が出来、派手なキックオフ大会を開催したけれども、結局途中で頓挫してしまう「キックオフ大会病」に終わってしまう。

(4)トップの決断

 プロジェクト発足の決め手となるのはやはりトップの決断であろう。何かにつけトップが腹を据えてかからない限り抜本的な改革はできない。トップの決断とリーダーシップが重要な成功への鍵である。

(5)プロジェクトチームの発足

 かくしてプロジェクトチームが正式に発足することになる。以下にプロジェクト結成に当たっての留意点を挙げる。 

  ◎プロジェクトの機能

 プロジェクトチームは、図5の問題解決のプロセスに従い、「目標設定」、「問題分析(調査)」、「根本原因の検討」、「解決案作成」、「実施、フォロー」までを一貫して責任をもつのが理想である。確実に成果を出すごとが重要。

  • 組織図、チーム編成
     通常、トップを責任者に、まとめ役の事務局、そして各関連部署からメンバーを出してもらうわけであるが、利害対立が起こりそうな部署や実施段階で協力が必要な部署からの参加は必ず得ること。
  • 専任かどうか?
     専任メンバーが作れるかどうかは、時々の状況次第である。ただし、専任でない場合、メンバーの位置付けと責任をはっきりしないと会議に出てきて言いたいことだけいって終わることになりかねないので注意が必要。
  • リーダーとコーディネーター
     プロジェクトを効果あるものにするためには、必ず実質的なリーダーと客観的な立場からコーディネート出来る人を確保する必要がある。特にコーディネーターの役割は重要で場合によっては、外部のコンサルタントを活用するのもいいだろう。
  • 活動計画
     プロジェクトを起こしてまず苦労するのが活動計画を作ることであろう。「結果はいつまでに出せ」というおしりは大抵決まっているのでその時点から逆算ということになるが、まず何からどう手をつけていいかから迷う場合が多い。

 また思考錯誤のなかで当初の期限を守れない、あるいは大幅に遅れることもよくある。数多くの経験の持ち主であっても、問題の内容が変わればなかなか予想がつかないもの。

 そして期限が近づくと、とにかく形だけでも結果を出そうと焦ることも度々である。こうしたことをふぜぐためにも、進捗状況を定期的に関係者に行い、状況の変化や今後の動き方を理解してもらう。

(6)キックオフ大会

 先にも例えで出したが、何かプロジェクトをやるとなるとキックオフ大会する場合が多いが、形だけのものならかえってやらないほうがいい。明確に目的を定めて実質的なものならば効果がある。以下はキックオフ大会の主な目的である。

    【キックオフ大会の目的】

  • 組織的オーソライズ
  • 関係者の巻き込み
  • 組織全体へのお広め・宣伝
  • トップの決意の表明
  • プロジェクトの目的の徹底
  • ゴールの明確化

(7)各種調査の実施

 STEP2の鳥瞰図の作成からSTEP4の徹底した事実調査までは特に関連部署へのヒアリング調査など情報の収集と分析が行われる。

(8)本質課題追及のための集中検討会

 STEP5の本質課題の検討およびSTEP6の課題の整理の段階は、今まで調査した情報をもとにしてメンバーの間で徹底した討論を行い、何が本質課題かを詰めていく。特にこの検討会では、メンバー同志の対立や激しいやり取りがあるが、それを決して避けてはならない。

 このやり取りが互いの意識のすり合せにとって重要だからである。

(9)課題共有化のための中間報告会

 本質的な課題が明らかになり整理された段階で、トップをはじめ関係各部署の人達を集めて、まとまった時間かけて中間報告会を行うと効果的である。これは現状の認識を共有化することで、全員のイメージが共有できることと同時に、解決に向けて気持ちが高まる効果も併せもつからである。

(10)解決案検討会議

 次に解決案を作るのだが、これは関係者とりわけ直接的に解決案を実行する担当者やアイデアマン、外部情報に詳しい人などを集めて、STEP8からSTEP10-2までの段階の検討を行う。

 日頃の環境から離れ自由なアイデアを出してもらうために、保養所など会社の外の施設を借りて、自由な服装で休日などにやるとよい。

(11)実施案活動企画書作成

 検討された結果を下に今度は実施案の活動企画書を作成する。特に最終的な組織としての承認をとるための資料ともなるので訴求力あるものにする。 

(12)解決案の実施・フォロー

 通常この企画書が承認されると、実施案は通常の組織に下ろされ、プロジェクトから離れる場合が多いが、しかし場合によってはプロジェクトチーム自身で実施案を実施するケースも出てくる。

 これは例えば今までどこにも例のないような事を試行してみなければならない場合や組織内部で反発があり現実にやって見せるしかないような場合である。

 それと、プロジェクトを離れたとたん推進力が弱まったりするケースがある。確実に成果が見届けられるように、実施後も結果を評価しフォローすることを事前に仕組んでおく必要がある。

(13)妨害者の説得と理解者の獲得

 プロジェクト進行途上で必ず、その妨害者や無関心者があらわれる。そして、またその対応に苦慮するものである。

 誰しも既得権益を置かされるとなれば必死の抵抗をしめすし、またいままでの慣れたやり方を変えるのはおっくうで抵抗がある。

 しかし、プロジェクトを推進するものとしては、常にどんな場合でもこうした人間は存在するものだと最初から考慮し、常に冷静に対処しなければならない。

 次の図はマーケティングの世界で有名なイノベーション曲線の理論と呼ばれるものである。これは改革を進める上でも全く同じことがいえる。つまりどこの世界にも3%は常に新しいと喜んでくれる人がいる。逆にいつも慎重で大勢が決してからでないと動かない後期追従者(34%)やなんとしても自分一人になるまでてこでも動かない遅滞者(16%)も必ず存在するということである。要するに一々腹をたてるのでなく、最初から「こういう人もいるのだ」と割り切ってかかることである。改革がうまくいくときは必ずこの波は広がり順に1から5の層に広がっていく。決め手はトップの旗振りと強力なプロジェクトの推進にかかっている。

4-3 それぞれの役割と責任

(1) トップのリーダーシップ

   トップの役割と責任はきわめて多い。主なものは以下のものである。

  • 的確な改革目標の設定
  • 改革への決断とメンバーへの動機づけ
  • メンバーへの励まし、勇気づけ
  • 妨害者の説得
  • 他組織との政治的調整
  • 定期的な進捗の確認と方向づけの指示
  • なんとしてもやり遂げる執念の持続

(2) ミドルの積極的参画

   ミドルクラスは実質的にプロジェクトの中核になることから以下のような役割が挙げられる。

  • プロジェクトへの積極的参画
  • プロジェクトの効果的な運営
  • 的確な問題把握と実効力ある解決案の策定
  • 組織への浸透、各部門の巻き込み
  • 解決案の実施と成果を出す      

(3) 現場担当者の役割

  • 真実や本音を素直に吐き出す
  • 調査などへの協力
  • 日頃から問題意識をもち課題発見力を養う
  • プロジェクトの盛り上げ
  • 問題をビジュアルに描写し上司や周囲に解決を呼びかける

4-4 成功するプロジェクトチーム

  成功するプロジェクトチームには以下の条件が必要だといわれる。

  • 目標が明確でテーマが切実
  • 創造的なリーダーがいる
  • やる気と能力がある少人数のメンバーがいる
  • 仕事本位のチームワークがとれている
  • チーム運営の方法が確立している。

  お互い対等な関係で自由に発言できる

4-5 成功するプロジェクト・リーダー

  プロジェクトの成否は一重にリーダー次第で決まる。「豊富な経験を持つ」、「予測能力に優れ」、「誰とでも平等に接することが出来」、「正確で迅速な判断が出来」、「表現力が優れ」、「人間関係で中立を保てる」ことができる人である必要がある。

  また改革のいろいろな局面毎に様々な役割を演じなければならないが主なものを挙げる。

  • コーディネーター(仕切屋)
  • コンセプト・プランナー(切り口屋)
  • コンストラクター(構想屋)
  • プロモーター(実践屋)
  • ネットワーカー(人脈家)
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