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第4章 具体事例(ケーススタディー)

 実は、きょう、皆さんにいろいろとお話をしましたけれども、一度私も塾生の皆さんの立場になって、もし自分が塾生だったらどんな研究をするだろうなということで、改革テーマを作ったらどうなるかというケーススタディを次の3ページに書いております。

 若干創作をしておりますけれども、かなり私自身の生い立ちであるとか、思いとかいうのに似てることを書いてます。いまの問題認識について書いてます。だから、私が京都政経塾生だったら、たぶんこのテーマを選ぶだろうなと思うテーマです。

 テーマとしては、まず「変革期におけるあるべき経営者を創る」と。まあ、経営コンサルタントですから、まさに毎日、毎日、その戦いですね。いまの時期、経営者っていうのは非常に疑心暗鬼に陥ったり、自信喪失に陥ってます。これだけ環境が激変する中でどう対応するのかということを、やっぱりやらなきゃいけないだろうということで、なぜ、私が塾生だったらこのテーマを選ぶかというあたり。

 実は、いま見ていただくと、3ページの「テーマの選定理由」ということと、下に枠で括った「テーマ概要」、それから4ページの「活動企画」という、大きく3段構成でまとめていただきたいなというふうに思うわけです。

 さっきのおダンゴの話、これが実は一番重要なんです。なぜそのテーマを選ぶのかという、そこが原点になります。この原点を踏み外して評論家的に、このテーマをやったらおもしろいんじゃないか、評価されるんじゃないかという程度の取り組みだったら、本当の改革者としては成功しないということです。

 実は、「テーマの選定理由」というのは表に出すものじゃないんですね。非常に私的な、プライベートなものです。実際、表に出てくるのは「テーマ概要」以下ですね。どこでどう化けるのか、ちょっとお話したい。

 皆さんは、論文にはこの「テーマ概要」からでいいんですが、自分なりに「テーマ選定理由」というのを書いてみてください。

◆ 選定理由 ◆

 私が京都政経塾の皆さんと同じ立場になったとしますと、私は衣料関係の製造販売を行う(これはちょっと創作してますが)会社を共同経営をしています。前々から松下幸之助さんの著作を読んで、大変勉強させていただいておりました。そして京都政経塾ができて、ぜひともこの機会に、その考え方とか原点をじっくりと勉強したいと思い、入塾しました。おそらく皆さん方も、京都政経塾に入塾されるときの入塾動機があろうかと思います。で、皆さんに今度やっていただく論文というのは、その塾生生活の1つの締めであり、1つの総決算だということですね。それがまた人生の総決算でもあるという風にぼくは思います。

 なぜならば、実は自分の生い立ちから、何をやりたいかというところまで絡んでくるんです。私の幼いころ(これは実際に私の体験です)小学校1、2年ぐらいのときなんですが、父が会社を経営しておりました。この会社が倒産をしました。これは飴屋で、従業員でいくと大体2?300人ぐらいの会社です。倒産をしまして、当時まだ小さいということもあったんで、家に債権者が押し掛けて来たりとか、あるいは経済的に困窮したりとか、明日食べる米も、買えない経験をしました。実際、本当にお袋は嘆いたんですよ、そのとき。(こんな話をニコニコ笑いながらできるっていういまの心境を私はうれしいと思いますけどね。)そういう経験がありました。

 これは子供のとき、自分が感じたことなんですね。昨日まで仲良く遊んでいた友人から、理由もなく無視されるんですよ。なになにちゃん、遊ぼうって行くでしょう。そうするとね、もう遊べないよって言われるんですね、親が出てきて。

 それとか、かわいがってくれた近所のオジサン、これがね、急に態度を豹変してね。私とお袋が歩いてたときに「あそこの人、見なさい、あそこの倒産したとこの会社の子ですよ」って言い方される。もうね、倒産してお金がないっていう苦労もそうだけど、まあ、本当にドロドロしたエグイところが全部来るんですね。覚えてますけど、債権者が押し掛けてきて、家に土足であがってくるんですよ。土足であがってきて、こたつの上に足を乗っけて、おいっ、いるかって。まあ、取り立てるときはみんなそうでしょうな、おそらく。逆の立場になったら、ぼくもやるかもしれません(笑)。

 それでタバコ吸うんですね、プカプカと。うち、だれもタバコ吸ってませんでした、当時。灰皿ねえのか、灰皿とか言って。たまたま向かいに食器を置く棚がありましてね、そこの中からコップ出してきて、その中に吸い殻をすりつけるわけですよ。まあ、そんなようなことがあったわけです。

 だから、食えなくなる苦労もそうだけども、そういう無茶苦茶なことが起こって、しかも、人間が裏切ってしまうとさらに最悪。そのうえに輪をかけて親戚一同から完膚なきまでに足蹴にされました。

 うちの親父が一番スケープゴートにされたんです、ある理由があって。家族中から。同族経営でしたから、まあ、なんていうんですか、無茶苦茶なことやられたわけですね。

 ですから、友達を失い、近所の地域関係を失い、それから親戚中を失い、お金がなくなり、学校からはもう、学校は、夜逃げしなきゃいけませんでしたから、婆さんの家から、母親の実家の。ここだったら、まだ追求の手は逃れられるだろうということで、そこから朝一番で学校まで車で送ってもらって、学校が終わったら、お袋が校門で待ってましてね、車に乗っかって、また婆さんの家に行く。自分の家に行くと債権者が追っ掛けてくるからね。

 そういうようなことがあって、もう本当に情けないなと思ったというか、もう心がキューンとなったのは、お袋が送ってくれる帰りのときに言ったんです。「泰一郎、もう一緒に夜逃げしようか」って。まあ、そのときは本当に、なんというのか、子供心に言いましたよ。「お母さん、学校はどうするのって。」そのひと言でその行為に及ぶことはやめましたけど、まさに人間、どん底にいくと本当にそういうことを考えるんだなということで、この後の話はあとにしましょう。

 ですから、なんかあるんですね。(人間が何かをやろうという背景には)実際にお母さんが、ボケになるという経験を持たれていたり、あるいは実際に中国から帰られた方の仕事をされてるわけですね。ですから、皆さん、なんかのきっかけでたぶん、こういうことをしたいとかああいうことしたいとかっていう思いがあるはずなんだけども、日ごろ、それを振り返って整理する時間がないというのが日常だと思います。ですから、まず、私の場合は、ずっと振り返って、志の原点はこれだったんですね。

 その次いきます。レジメの3ページを見てください。そうした経験をへて、今日、経営にいま自分が携わってますから、我が身を振り返ると、なんとしても倒産しない会社、発展する会社の経営というのを、まさに自分が当事者としてやっていかなきゃいけない。本当の経営を目指さなきゃいけないんだという、人生の問題意識、人生のテーマがあるということです。

 ところが、いま環境は非常に激変して、円高の問題とかなんかで、衣料関係ですから、この場合の設定は。韓国とか中国からものすごく、考えられないぐらいの安い商品が入ってきて、しかも、経営的に非常に苦しい状況にある。つまり、自分自身がいま置かれた状況が、まさに大変なゴースト、すなわち課題を抱えているわけです。

 ところが、回りを見てみると、こうした状況というのは自分の会社だけにかぎらずに、私の回りの京都の中小企業の多くが同じような状況に置かれて困っている。回りを見ると、同じ共通認識がある。共通課題なんだと。で、自分自身で動き出したわけです。こうした状況を打開しようと、JCの仲間と研究会をやったり、講師を呼んで勉強してみたり、いろいろ本を読んでみたと。ところが、世に出てる本というのはノウハウ本が多いですから、あまり効果的な解決には結びつかない。自分の会社に置き換えたときに、そのことに対する答えではないんですね。

 ですから、今日までの努力はこうしてみたと。その後、いろいろ考えるんです。ここが重要です。やってみたけどうまくいかない。ところが、いろいろ思索してみる。どうしてうまくいかないのかな、どうしてなんだろうと考えてみる。

 その後、自分がいろいろ考えた結果、今日の状況の打開というのは、過去の経験とか知識とか、そういったものではどうも解決つかないなと。ぜひ経営の本質を追求して、それにそって自分自身の意識を変えて、経営のやり方を根本的に変える必要があるんだなと。つまり、テーマ自身が自分自身にとってメリットがある、つながりが大きい。しかも、そのことがあとあと大きく生かせることですね。こういうことが重要になってくるんではないかと。

 そこで、一念発起をして、京都政経塾の仲間と一緒にこの問題について本格的に研究し、自分一人だとボーッと投げるかもしれないけれども、仲間と一緒だったら相互牽制ができるし、お互いに励まし合うこともできる、知恵も集まるしということで、仲間と一緒にやろうということで、その結果を社会に訴えていくならば、きっとこの社会はよくなるだろう。自分が困ってるけれども、みんなも困ってるんだなと。だから、そのことをやろうと。きっとお役に立つだろう。で、このテーマを選びました。つまり、おダンゴの一番上ですね。社会の意識と志の部分です。

 で、志の一番下の部分、つまり、どうやって生きるか、あるいは、どうやって現実的に資源をもう一度勝ち取るかという話。これは、このテーマの実現を通じて、経営の本質を自ら身につけることを通じて何になるか、自分にどう返ってくるのか。経営者としての自己成長につながるだろう。このことによって、経営者としてのあり方っていうのは何か、っていうのがわかるだろう。それとまた、実際の自分の会社の経営にも生かせるなと。まあ、実利両方兼ねてあるわけですね。

 こうなると、まさにおダンゴに串が1本、ズカッと通るでしょう。自分はなにか。将来、どうやって社会のお役に立つのか。なおかつ、自分にとってのメリットもあるなと。それを、これを通じてやっていこうと。しかも、人生のテーマだと。こういうことになりますね。

 あとから志のテーマの種類言いますが、どうしてこういう考え方を自分がしたのかということを、ぼくのカラクリを説き明かしますが、結局、こういうことがあって、このことは文章には書きませんよ。しかし、これが重要なんです。

 また茅ヶ崎の話をして申し訳ないですが、ぼくらは、この、なんで選ぶのかというあたり、ここのことをあまり言われませんでした、正直。逆にいうと、研究のテーマ概要以下を突つかれたと。しかも、それは選挙にどう役に立つんだ、どう役に立つんだって、下のおダンゴばっかり突つかれたんでね。自分もそっちに意識がいくでしょう。そうすると、一番上を忘れてしまうんです。だけど、この一番上の部分、テーマの選定理由っていうのが、実は皆さんの人生そのものであるし、なんのために生きるかそのものだと思うんですね。それを具体的に今回、この京都政経塾で形として出そうということになるんじゃないかなと思うんです。

◆ テーマの概要 ◆

 で、具体的にテーマの概要っていうのはどう書くかというあたり。さっきいろいろ項目を言いましたね。それを文章化するとこうなります。ここは一人称ではありませんね。私がどうだとかいうんじゃなくて、いわゆる第三人称的な書き方になります。

 まず『バブル経済の崩壊後、急激な円高が進行して、アジア各国から低価格商品の流入』とか、『また規制緩和の影響でかつてない激烈な企業間競争がいま行われている』これは背景です。いまどんな状況なのか。しかも、どう動こうとしているのか。『そうした中で経営者の多くは、過去の経験が通用しない非常な苦境の中に置かれている』これは回りを見渡して、みんなも困ってるということをさっき上に書きましたね。それを文章化するとこういうことになるわけです。要するに、社会も困ってるんだと。

 その次。『しかし、現実に即した具体的な処方箋はまだ描かれていないのが現状です』。自分が本屋へ行っていろいろ本を読んだ。講師を呼んで勉強した。だが、その処方箋はなかった。つまり、現実に立脚した、本物の経営をつかんだ、そういう処方箋がまだ出てないと。ここからオリジナリティが出てくるんです。だれもやったことのないことを自分で挑戦しようという。

 それでその次。『そこで本テーマは、こうした変革期を逞しく生き抜く 100人の経営者に面談調査を行い』具体的な方法論です。どうやってやるのかという。

 で、その次。『その調査結果をもとにしたシンポジウムを開催することによって』これは具体的には社会にどう働きかけをするのか、どういう成果を残すのかということですね。

 ですから、当面、皆さんは一応卒塾論文を書くということと、「ちにか」の研究大会に発表するということと、一応場が用意されてます。普通はこんな場は用意されてません。自分でつくるものなんです。ただ、いちおう1年生ということもあるんで、そういう場所を京都政経塾では用意しているということです。 その次が重要。結局、パンの下のほうですね。下のほうのパンが出てきます。『変革期におけるあるべき経営者を生み出し』これは直接的な波及効果です。結果どうなるのか、社会が。『日本経済のさらなる発展に寄与する』んだということですね。ですから、さっきの上のパン、真ん中のハンバーグ、下のパン、これでたぶん具体的に理解できたんじゃないかなと思います。

 ところが、この上の「テーマの選定理由」ってむずかしいですよね。日ごろ、なかなか自分のことを振り返る時間がない。思索をする時間がない。外から情報を入れてばっかし。現代人を象徴してこう言われます。

 「用はあっても養はなし」。どういうことかというと、いっつもいっつも使うばっかし。アウトプットばっかし。やがてスレ枯らしになって、プッツリと突然急死するとかね。なんのために俺は生きてるんだろうか。

 要するに、インプットして自分を肥やすということがない。安らぐということがないんですね。だから、豊かな、潤いのある人生がないということです。まさに馬車馬のように扱き使われてるということです。ですから、こういうことをしっかりと、特に「テーマの選定」というのはまさに自分の人生そのものと関わりますよね、これは。ここにも書いてあるように。これがあってはじめて、実はテーマが決まるということだろうと思います。

 ですから、皆さんのテーマというのはそれなりに、無意識ではあるけれども、そういうことを下敷きにしながら、今回いろいろ出されたと思いますんで、もう1回、本気にやりたいのかというあたりを一度ゆっくり考えてください。雑音の入らないところで。お風呂の中でも結構ですし。別に、これは考えなきゃいけないからやるんじゃないですよ。やりたくてやるんですよ。いいですね。鼻唄交じりの命がけですよ。こういうものを真剣にやるとね、まあ、頭の中、パニクりますからね。で、いつまでたっても結論が出る問題じゃないですからね。まあ、そういうことです。

◆ 活動企画 ◆

 その次、活動企画っていうのに入ります。レジメの4ページをご覧ください。これはどういうことかというと、まず重要なことは5W1Hをはっきりさせましょう。これからは具体的に動かなきゃいけませんので、企画が決まったら、まず活動企画を決めますが、一番最初は、誰が、ということです。先ほど、環境部会の方に、高瀬川に蛍を飛ばす計画で誰が主役なんですか、誰が言い出しっぺですかって聞いて、ツルツルツルときてた桂川さんが口出して、結局、桂川さんが影の黒幕だったんだなというのが判明しましたけれども(笑)。

 「誰が」なんです、やっぱり。やっぱり一番思い入れがあるやつがグループの中で引っ張らなきゃダメです。あとは、横の展開をするときは己を殺して、みんなでまとめましょう。自分がやるときは縦軸で突っ張りましょう。

 その次、推進日程をつくりましょう。ここでは、いつまでに何をするかっていうことなんですが、まず、中長期の展望をイメージしてください。具体的なハンバーグの話だけすると、次、どうつながるかが見えてきません。だから、今後どんな形で進めようかなというストーリーをイメージづくりしてください。これが非常に重要なことになります。で、大体、こうしてこうしていったら、こうなるなと。さっきのJVでしたら、最後はボランティア教育に感心がない文部省の頭をカチンとやるところ。大衆がターゲットになってくるんだったら、それはどういう形でやっていこうかなと。

 ふつう、発想するときに、いまあるところからどうしようか、どうしようかと皆さん、考えますね。この発想をしてると時間の無駄です。ケツから発想してください。着地で何をするか。着地を実現して、そのイメージを強固な絵を書く。さっき言いましたね。あれを実現するためには何をするのっていう逆流を考えます。そうすると、余分な時間を使わずに、そこに最小限度の時間で最大のパフォーマンスを得る資源の集中ができます。これが戦略というやつです。戦略というのは、別に戦争とか経営戦略だけじゃないんですよ。人生にも戦略がいるんです。

 ユダヤの諺でね「お金はあればあるにこしたことはない。しかし、ありすぎても意味はない。ところが、お金があることによって機会が開発できる」っていう諺があるんです。つまり、チャンスができる。お金持ちになれば、そりゃ、威張っててもしようがないですけど、それが再投資に回るって、さっきの話。まあ、そういうことなんで、資源は有効に使わないと人生はエンジョイできません。着地してナンボですからね。その絵に到達してはじめて喜びが味わえるわけですからね。もちろんプロセスもそうですけど、それができたときに飲んだビールは、この間も話したけど、やっぱりうまいと思いますよ。

 その次。そういう絵が描けたら、じゃ、当座、いつまでになにをするんだ。これは具体的な戦略です。で、具体的なアウトプットをいつまでに出すのっていう話ですね。こうなると、ケツが切られます、時間的な。「いつまでに」っていう。そうすると、中長期のスケジュールが書けます。いっぺんスジュール表を書いてみてください。

 皆さんの中でよくできたやつっていうのは、確か3年か5年計画で絵を書いておられた方がいましたね。どなただったか、ちょっと忘れましたけど。あのへんの話がいるんですね、まず。そうかと思うと、短期のスケジュールしか書いてない方ってのもお見えになりました。両方いるんです。目的が違いますから。要は、長期のやつは夢を描いて、ストーリーがわかるように。短期のやつは具体的に着地できるように。詳細に、綿密にと。この使い分けが重要です。

 じゃ、問題の、皆さんの一番お知りになりたい、具体的にどうするのっていう活動設計。これに入りましょう。

 まず、コンセプトを明確にしましょう。つまり、「あなたの研究は一体、一言でいうと何やりたいねん」と。先ほどもちょっと言ってたんですが、「3分間で人生を語れなかったら、政経塾生じゃない」っていう話をしたんですが、なぜかというと、まさに、さっきの志はなにかというのがずっと文字にして書ければ、テーマの選定理由を。これを読めば3分で読めますよ。(レジメ3ページ)

 しかも、そのことが相手にお役に立とうという姿勢があれば、スポーンと相手に入りますよ。3分で十分。それを、一言で言ったらどういうことをやると。要は、なにやりたいねん、というのが、まさに短期の勝負になります。その一言っていうのが、いかに相手に訴えるポイントになります。具体的にいうと、シンポジウムをやるんだったら、そのタイトルを考えるということがコンセプトの明確化になります。

 その次、目的の具体化というのが入ります。ここでは、皆さんのテーマの中には、お客さんが誰かっていうのがイメージされてませんでしたね。お客さんを絞ってください。お客さんが多ければ多いほど、やることは、短期の場合はボケてきます。効果が薄くなります。できるだけ、お客さんがだれか、具体的に絞ること。そしてお客さんのニーズはなにか、徹底的に把握すること。そしてその要点をつかみ出すこと。なにを、どう提供していくのか。その結果、お客さんがどう変わるのか。本当にお客さんが喜ぶのか、お役に立つのか。ここが目的の具体化として重要なところです。そうすると、かなり具体化した計画が立てられるようになります。それで、具体的に期限まで切りますから、具体的な成果物、着地点のイメージ。

 蛍のテーマは、(比較的うまくまとまってるんだけど)、現実的にできるかっていうあたりが難しいですね。だから、よほど事実調査とかなんかをしなきゃいけないということになりますが、いずれにしても、そういう着地のイメージが具体化されると、さあ、それをどうやってつくるかという話になります。ここからが具体的な開発分析、つまり、どうやって開発するのか、そのニーズを、そのサービスを。具体的な成果物をどうやってつくるのか。成果物を開発するまでのシナリオができます。

 その次。ここまできてはじめて、必要な資源がわかってくるわけです。例えば、そのために必要な工数。要は、どれだけの時間がかかるんやということです。ここは経営をイメージしますから設備と書いてありますけど、皆さんのあれであれば、いろんなテクノロジーとかパソコンを活用するとか、そういうようなことでしょう。

 例えば、いろいろアンケートをしたとしましょう。アンケートの集計を手書きでやってたってバカげてるけど、ここへきてパソコン借りてチャチャッとやると1日かかるものが1時間で済むとかね。そういう資源が重要になってくる。

 それから、動けば資金がいります。大きなことをやろうと思ったらたくさんの資金がいります。どのぐらいのお金がかかるのか。予算計画もつくりましょう。協力者もいります。実はこのへんをみんな逃げて通ってます。地方の町おこしとか、ボランティア団体でここを真剣に考えてるところっていうのは非常に少ないと思います。ところが、本当に真剣になって世の中に貢献しようと思ったら、具体的に目に見える、形の残る、実現がある、波及効果がある、それをやらなきゃいけませんから、まさに企業と同じ発想がいるはずです。

 今度は資源を調達しなきゃいけません。どうしようか。さっき、困ってましたね、アンケートしなきゃいけないんだけど、人脈がないとかって。私が過去いろいろ経験した中で考えられるもの、全部書きました。

 まず人。これはオブザーバーがいります。まず、その道の専門家。これに当たりをつけてください。さっきの保勝会でしたっけ。蛍をやってるという人、いましたよね。その人なんか、まさにこの人ですね。体験者もいるけども、理論的に検証してる人ね、大学教授とかその道の専門家とかいう人も当たってください。その人たちは広く世の中のことを知ってますから。だから、海外で何があったかということはよく知ってます。ところが、そういう人に限って実際に経験していないことが多く、どこがポイントなのか、どこがウエイトなのか、ツボなのか知りませんから、それは実際の体験者に当たってください。それから顧問。これはプロジェクトの指導する人です。私がやりますから、ご安心ください。

 その次、協賛先。さっきのシンポジウムであったら、マスコミとか役所とか政治家とか。よくシンポジウムを企画する人いますけど、まず真っ先にやるのは、政治家のコネ使って役所に飛び込んでください、文部省とか厚生省とか。政治家のルートを使ったら、たぶん間違いなく、ノーとは言わないでしょう。そこで名前だけ借りるんです。その次にマスコミが乗ってきます。役所が動けばマスコミが動く。その次にいろんな団体ですね、やってる団体。こういうのがイモ吊り式に開発されます。このへんのとっかかりは、過去政経塾で本体のほうをやってきた資産が必ずたくさんありますから。そのかわり、ちゃんと世の中のお役に立つことをやらなきゃダメですよ。私利私欲でやったらダメですよ。そこが重要ですから、よろしく。

 その次、業務を提携する先があります。先ほどのJV協会などは、まさにこの提携先に入ると思います。ボランティア団体、各種組織ですね。

 それからお金。これは意外に重要なことです。大体、こういうのをやるとするとアウトプットのことしか考えません。だから、金がかかるとまず出てくる先が、収入源として自腹を切る。寄付を仰ぐ。協賛金を募る。会をつくって会費を集める。真っ先にこれだったら、1回転したらぶっつぶれるでしょう。2回転はしないでしょう。つまり、継続性がないということです。

 松下政経塾で「政経フォーラム」っていうのを前やってたんですね、ずっと。そのときに、幸之助創業者が言った言葉があるんですが「『フォーラム』をやったら必ず金を取れ」と。えげつないでしょう。「『慈善事業だから、そんなの、金なんか取らなくていい』だとぉ。バカ野郎、中身のある情報を出すのがおれたちの責務だ。そのことに対しては責任負え。そのかわり、いい情報出したらより高く金取るのがあたりまえだろう」と。

 だから、皆さんの研究テーマはそれなりの会場を借りて、日経新聞社か共同通信社主催で、1回3万円、1人取れる、1日やれる、そういうものをやってみてください。そりゃ、3万円取ろうと思ってやりゃ大変よ。それだけお役に立つから、みんな来るんだよね。そのぐらいのもんですわ、ホント、世の中変えるということは。その覚悟がなかったら遊びですわ。自己満足ですよ。それだけのことを、実は幸之助さんというのは我々に言われたんだなと思います。ただ、実際いままで政経塾のやつで3万円取ったフォーラムは過去ないですがね(笑)。皆さんが最初に実現してください。それやったら、上甲さんなんか、引っ繰り返って喜びますわ。まあ、茅ヶ崎の本部は抜くでしょう、それができたら。まずそれを目指してください。

 ですから、事業収入としては、例えば、皆さんが研究します。例えば、京都新聞にこの間論文出して、入賞されましたよね。あれだったら、本に出るんですよ。きちっとまとめ直せば。出版社へのコネだったら、塾でいくらでもありますから。政経塾発信でもいいですよ。出版社としての機能はできますからね。まずそういうことね。

 それから広告料。冊子をつくって、その関係団体をいろいろと回って「こんな冊子つくるんだけど」って、ゲラだけ持って回って、いくら載せますかって金集めれたらいいんです。テーマが環境だったら、環境に関係してる会社ってたくさんあるはずですよ。

 皆さん、「住宅情報」って雑誌、知ってます?こんな分厚くて、カラーの。あれ、1冊作るのに、現在いくらすると思います? 300円で売ってますが。

 実は2000円かかるんです。いまバブルが弾けて3000円ぐらいになると思いますね。なんで経営が成り立つの? ということです。

 「日経パソコン」とか「日経コンピュータ」とかっていう雑誌ありますね。あれがなんであんなにたくさんできるかといったら、雑誌の広告収入ばっかりですよ。読んでる人は広告も情報なんですね。いろんな会社がどんな商品出したかっていう情報ですから。

 たぶんね、政経塾の人が来ても、観念論の話をする人はいるけど、実際のこのことを教えてくれる人って案外少ないと思いますわ。わたしは経営コンサルタントで、ビジネスの最前線で、グローバル経営の最前線でやってるから、こんなことばっかりです、日常茶飯事。ところが、会社の人はね、志の部分はほとんど考えてないのね。組織人でやってるから。自分のこと、殺さなきゃできないから。だから、双方のいいところ、相取りしたらいいですよ。物事を進めるには両方ともいりますから。すみません、余談になりました。

 それから入場料。さっき言った「フォーラム」やったら入場料取るんですよ。

 それから商品販売。商品販売というのは、例えば、蛍の鑑賞会やって金取ったらいいんです。いや、実際、ホントに。それで、どんなに高いコストかかっても、そのことでペイしていけば、いずれ元取れるでしょう。

 それからサービスの販売。ノウハウができたら、今度はあなた方が、環境づくりを再構築するにはどうするかってコンサート歩けばいいんです。全国でやりたいボランティア団体、たくさんあるでしょう。行政として取り組めば、それが目玉になって全国的に有名になりますからね。町おこしにもなるでしょう。皆さんがプロとして専門家になるはずですよ。講演なんて、まさにそれこそ、つくったそのもので商売になりますよね。

 いまのがノウハウの提供っていうやつね。だから、世の中のためになるっていうことは必ず報酬に結びつくことなんです。ボランティアでやる必要ないんです。報酬取ったら継続性が出てくるんです。それが営利に結びつくんだったら、会社にしようかということになるし、あれは社会性が強くて、あまり直接的なお金はもらえないというんだったら、いわゆる認可団体にすればいいんです。財団かなんかにして、国から補助金をもらって、で、収入を補うんです。そのかわり、直接的な事業からも収入も得るんです。そうすると、マネージメントとしてきちっと回っていきます。このへんはかなり現実的な話です。要するに、観念論ん遊びだけじゃダメよと、現実を踏まえてやれということですね。

 私は今まで、長い間松下電器でいろいろお仕事をさせて頂く中で、松下の経営っていうものの極意をつかもう、塾主の到達された境地へ少しでも近づこうという気概でいつもやってきているんです。しかし結局、幸之助さんが教えたかったっていうのは、ここで私が申し上げたようなことなんだろうなと思うんですよ。まさしく自分のありたい姿を実現しながら、同時にそのことが世の中のお役に立ち、しかもお役に立つ以上、必ず報酬をもらえと。そして長く継続的により広い範囲に良いことは広げろと。絶対に「儲ける」ことを抜かすなよと正しいことをする以上、必ず儲かるのだ。いや儲けなければいけないのだ。経営というのはそういうことだと。

 それで初めて世の中に広く貢献できますね。2回転、3回転、4回転、グルグル回っていくわけですよ。その間にパイがどんどん大きくなっていく。そうすると、人が増えていったり、多くの仲間がそれで養えたり。そうなってくると、基本的に力がでかくなるから、より広く社会に貢献できるようになる。

 その次です。技術としての情報システムとか、データベースの検索だとかそういうことがいるでしょう。

 それから、情報として、いわゆる専門知識、事実調査。さっきの体験というのもそうですからね。いわゆる体験としての情報というのが入ってきますから。それからヒアリング調査、グループ・ミーティング。今みたいなこういうグループ・ディスカッションっていろいろアイデアが出てるでしょう。お互いに研究を叩き合うんですよ。研究を叩くときは、基本的に、自分のことはそのとき棚にあげてください。自分のことを棚にあげないと人のことはなかなか言えないのよね。その厳しいことを言ったとき、お前はどうなってるんだと、そういう聞き方しないでね。みんなお互いのために言ってるやつだから。

 で、おもしろいんですよ。人に指摘するでしょう、一生懸命。そのことって、自分の欠点を指摘してるんですね、あれ、聞いてみると。よく冷静に聞いてみると、そうなんですよ。「ははあ、そうか。この人、ここが弱いんだなと。あるいはここが強いところか」っていうのがピピピーッとくるんですね。だから、非常に強くて、その人の足りないところは言うし、自分が欠如してて、その人も欠如してると、そこが見えるからそこを指摘するんですね。本当に面白いものです。

 それから時間。確かに時間ないです。もうあと残すところ、何ヵ月かでしょう。物事はね、真剣になったら三ヵ月で勝負が決まるといわれます。活動の管理は1です。1ヵ月とか1日とか。ところが、成果を出すのは3ヵ月、あるいは3日、3年。ふつう、管理する人は1で管理したがるんですよ。つまり、今月、どうだった。当月の売り、どうだ。当月の利益、どうだ。ところが、まだそれでは成果出ないんですね。3ヵ月後に成果出るから。新規開拓で、全然知らないところで物を売りに行ったらわかりますわ。大体最初の1ヵ月、2ヵ月、全然売れません。売れるはずないですよ、信用もなきゃね。ところが、3ヵ月目ぐらいになってくると、徐々に売れはじめて、ズズズーッと売れてくる。これは新規開拓をやっていくものの条件です。だから、3ヵ月間はウダウダ言ったらアカンのです。

 ということで、その次。「推進上の課題とシミュレーションとその対策」と書いてます。やるときに企画を立てて、たいていの場合、自分の独りよがりになります。企画をつくったら、必ず悲観的に見てくれる人、厳しい目で見てくれる人に、その企画を見せてください。そうするとボロクソに言われるでしょう。そのときに腹を立てたら絶対ダメ。自分が向上する材料を提供してくれるんだと思って、仏さんのようにして話を聞いてください。その要素を入れ込めば、そういう人たちも新たに仲間に入ってくれるはずです。

 これが、自分の我が強くて向上心のない人は、なんか聞いたときに「それは違う」とか「これはこういうことなんだ」といって聞かないんですよ。逆に向上心のある人は、厳しいこと言われても、ああ、なるほど、そういう見方、考え方があったかと。そのことはすぐ取り込めなきゃなということで逆に頭を使い出すんですね。だから、それをやってください。

 それから、短期計画のスケジュール表をつくってください。で、はじめから時間がないわけですから、残りの日程時間をちゃんとかんりしてやってください。

 次に「活動の実施」ということなんですが、進捗管理。これは相互チェックとお互いのアイデア出しということです。これはきょう皆さんがやったようなやり方ですね。

 それで、これはここに書いてないことなんですが、皆さん、いろいろアイデア出します。いろいろ夢がふくらんでいく状況ですね。これをスキャンといいます。実際に行動に移そうと思うと、これを包括していかなきゃいけません。で、具体的に動きが出てきて、これがアクションです。これが、皆さんにお渡ししたテキストに書いてます。後ろのほうにですね、59ページから。(「システムズ・アプローチによる改革の実践」)これは私の師匠、フランク・バーンズという方の考えた理論です。つまり、SCAN−FOCUS−ACTによって周知が集まるのだ、ということです。

それで何を言いたかったかというと、いろいろアイデアを出すときに、スキャンの間であったらみんな言えるんですよ。なぜかというと、他人事だから。こうしたらいいんじゃないって。だから、スキャンのときはそういう意見を聞いてください。

 ところが、フォーカスになりだしたときには、逆に自分の我をフッと出さなきゃいけないときです。切り捨てなきゃいけないから、あれもこれもっていうのを。だから、そこまでグーッと絞り込んでいったら、できるものだけに絞って形にしていくということがフォーカスです。それがアウトプットに結びつきます。アクション、成果に。

次回(いつなるかわかりませんが)それで、またどこまで進んだか中間のフォローを一度皆さんとやりたいと思います。そのときには、今回のレジメに対して、その後なにをしたのか。どんなふうな成果がそこまでで出てきたのか。その後の進め方はどうするのか。着地のイメージはなんなのか。いま困ってることは何なのか。「このことについてご相談したいんだけど」っていう形でレジメをまとめていただいたら、大変結構です。そういうまとめ方をしてください。時系列を追って、それをどんどんファイルしていけば、先ほど申し上げた研究履歴になるはずです。

 それから、次に恐ろしいことを書いてます。「計画修正」です。これだけのことを話しますと、皆さん、思い切ってやろうってことになるでしょう。しかし、計画は実現するのが絶対重要なことですから、無理だと思ったら修正してください。つまり、蛍を飛ばす場合なら「高瀬川」もやろう、「鴨川」もやろうだったのが、「高瀬川」だけにしようと。「二条」と「御池」の間だったのが、もうちょっと狭くしようとか。そこだけの水質調査をしてみるとか。

やれる範囲でグッグッと絞ってください。範囲とか項目とか。最初は児童の公園を考える、お年寄りも考える、あれも考えるって言ってるけれども、残り時間考えて、着地のイメージを考えたら、老人に絞らなきゃできないよなと。いいじゃないですか。児童公園は、そのノウハウを使ってまた次にやれば。気長にやるんでしょう。継続してやるんでしょう。無理しないことです。だから、途中でダメだとわかったら、とにかく計画を小さく絞ってけっこうです。別に絞ることが悪いことじゃありません、少しの勇気があればできること。ある方が言いました。「経営がうまいかうまくないかっていうのは、槍にたとえると、突くときじゃなくて引くときにツボがあるんだ」と。成功のためには、引くことも重要なファクターです。

 企業における撤退戦略っていうのが、一番経営者の腹が試されるときなんですよ。皆さん、事業から撤退するとか、従業員のクビを切るっていうのは、非常にお金がかかることだっていうのはあまり知られてないかもしれませんけれども、ものすごく金がかかるんです。例えば、工場をつくってますね。帳簿上、それを全部欠損で落としちゃうわけです。その持ってる資産を。あるいは売却しちゃうんですよ。残ったそこの従業員をどうするか。まあ、私が経営者だったら、今の状況だったら、出せるか出せないかは別にしても、まあ、自分の家を売っ払ってでも3年間、給与補償をしてあげれば、大体次の仕事を探せるなという安心になりますよね。そうすると、通常の退職金とプラス3年間の余分な給与補償みたいなのをするんです、ふつうは。そのための特別なお金がいるんです。ですから、撤退するときというのは、1回、全部ボコーンと赤になるんですよ。赤字に転落するんですよ。

 今年度のアップル社、あのマッキントッシュをつくってる。あそこがリストラのために特別損失を計上して赤字に転落したんですけどね、まあ、まあ、そんなもんですわ。ですから、できないと思ったら、とにかく、いいですから、最初の一歩なんですから、形にして出すことが重要です。仮に小さくなっても、ハンバーグが、パンがしっかりしてたらその価値はトータルで見られますから。 それと、皆さんのさっきの「テーマ選定の理由」が重要なんですよ、理由が。だから、逆に言ったら、さっきの「テーマはこういう理由でこれをやります。こういう計画で研究をします。」と。僕はそれだけでもね、十分ものすごい価値があると思うんですよ。

 それから成果物のアウトプット。これは必ずやってください。全員でやってください。私も参加します。

それと反省会。それは終わりであって始まりでもあります。反省会をやりましょう。あなたは次どうしたいのと。それで、もういっぺん、こういうことを続けてやりたいんだ、食い足りない。じゃ、2年目続けてやってください。皆さんがそういう志を持っておられる限り、政経塾はバックアップし、応援します。安心してください。

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